ラグランジアンは適当に見つけるものだ!

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少し前後するけれども, 本文の「最小作用の原理」に式の導出などを補足しておくことにする.


最小作用の原理

量子電磁力学の仮説は,「式(9-21)と式(9-22)で定義される振動子が量子的振動子である」ということである:

(9-20)a¨k(t)+k2c2ak(t)=4πjk(t),jk(t)=jk(t)kk2{kjk(t)}(9-21)a¨1k+k2c2a1k=4πj1k(t)(9-22)a¨2k+k2c2a2k=4πj2k(t)

ただし j1kj2k は, これらの方向の jk の成分である.このとき, なぜ「jk の成分」と言う必要がないのだろうか?.
偏極ベクトル(polarization vector) を ϵ(α)(α=1,2) としたとき, 単位ベクトルであるこの偏極ベクトルは, k が与えられると (ϵ(1),ϵ(2),k) が右手系を構成する基底ベクトルの組になるように ϵ(1)ϵ(2) が選ばれる.ϵ(α) は伝播方向 k と直交しているので「横波条件」が保証される:ϵ(α)k=0.従って, 式 (9.20) の両辺に ϵ(α) をかけ合わせると,
ϵ(α)jk(t)jαk(t)=ϵ(α)jk(t)ϵ(α)kk2{kjk(t)}=ϵ(α)jk(t)jαk(t)

よって, 成分 jαk(t) と成分 jαk(t) は一致することになるからである」.

偏極ベクトルの説明図

図 1. 偏極ベクトル

量子化を実行するために, 場の運動方程式と場の中の粒子の運動方程式を与える最小作用の原理を見つけなければならない.作用は次のように表わされる: [1]式 (9-24) から式 (9-26) … Continue reading

(9-23)S=S1+S2+S3

ここで, S1 は「場を無視したときの全粒子の作用積分」である (粒子間に電気的でない力が働く場合は, それを S1 に含める):
(9-24)S1=dtd3rimi2|r˙|2δ3(rqi)=dtimi2|q˙i|2

また, S2 は「場と粒子間の相互作用を表わす作用積分」である:
(9-25)S2=dtd3r[ρ(r,t)ϕ(r,t)1cj(r,t)A(r,t)]

そして S3 は「場の作用積分」である.変数は A(r,t), ϕ(r,t), qi(t) である:
S3=18πdtd3r(E2B2)(9-26)=18πdtd3r[|ϕ1cAt|2|×A|2]

変数 ak を使うと, 運動方程式が最も簡単になるので, 作用をこれらの変数で表してみることは価値がある.式(9-14)の展開を S3 に代入すると, 次が得られる:
S3=12dtd3k(2π)3(|a˙k+ikϕk4π|2c2|k×ak|2)(9-27)=12dtd3k(2π)3(k24πϕkϕk+a˙ka˙kk2c2akak)

そして S2 は次となる:
(9-28)S2=dtd3k(2π)3(ρkϕk4πjkak)

上式に ϕk=4πρk/k2 を代入し, S2S3 に在る ϕk の項を足し合わせることで次が得られる:
(9-29)Sc=dtd3k(2π)3(4πρkρk2k2)=dt[12ijeiej|qiqj|]

ただし式 (9-16} 並びに d3k4πk2eikr=1r を用いた.この Sc はまさに,「電荷の間のクーロン相互作用」である.クーロン相互作用を考えるのは通常, 電磁場の放射効果を無視して原子状態を解析するときである. (このとき, S2+S3=Sc+Srad+Sint となる).


補助メモ まず E2B2 を, 式(9-17)の前に書かれている Ek,Bk の式

(1)Ek=ikϕk4πa˙k,Bk=4πci(k×ak)

を用いて表してみると,
E2=EE=d3k(2π)3eikr(ikϕk4πa˙k)d3k(2π)3eikr(ikϕk4πa˙k)(2)=d3k(2π)3d3k(2π)3(ikϕk4πa˙k)(ikϕk4πa˙k)ei(kk)rB2=BB=d3k(2π)3eikr4π{ic(k×ak)}d3k(2π)3eikr4πci(k×ak)(3)=d3k(2π)3d3k(2π)34πc2(k×ak)(k×ak)ei(kk)r

従って式 (9-26) の S3 は, δ -関数の性質を利用して次に書ける:
S3=18πdtd3r(E2B2)=dt18πd3rE2dt18πd3rB2=dt18πd3k(2π)3d3k(2π)3(ikϕk4πa˙k)(ikϕk4πa˙k)d3rei(kk)rdt18πd3k(2π)3d3k(2π)34πc2(k×ak)(k×ak)d3rei(kk)r=dt18πd3k(2π)3d3k(2π)3(ikϕk4πa˙k)(ikϕk4πa˙k)(2π)3δ3(kk)dt18πd3k(2π)3d3k(2π)34πc2(k×ak)(k×ak)(2π)3δ3(kk)=dtd3k(2π)312(a˙kik4πϕk)(a˙k+ik4πϕk)dt18πd3k(2π)34πc2(k×ak)(k×ak)=dtd3k(2π)312|a˙k+ik4πϕk|2dtd3k(2π)3c22|k×ak|2(4)=12dtd3k(2π)3(a˙ka˙k+k24πϕkϕkc2|k×ak|2)

ここで被積分関数の第2項は, ベクトル解析の公式 (a×b)(c×d)=(ac)(bd)(ad)(bc) と, 式 (9-13) の kak=0 を用いると次に変形できる:
(5)|k×ak|2=(k×ak)(k×ak)=(kk)(akak)(kak)(akk)=k2(akak)=k2|ak|2

従って S3 は次のように書くことも出来る:
(6)S3=12dtd3k(2π)3(a˙ka˙k+k24πϕkϕkc2k2akak)

次に S2 を, 同様に式 (9-25) に式 (9-14) を代入して求めるならば次となる:

S2=dtd3r[ρ(r,t)ϕ(r,t)1cj(r,t)A(r,t)],d3rρϕ=d3rd3k(2π)3ρk(t)eikrd3k(2π)3ϕk(t)eikr=d3k(2π)3d3k(2π)3ρk(t)ϕk(t)d3rei(k+k)r=d3k(2π)3d3k(2π)3ρk(t)ϕk(t)(2π)3δ3(k+k)=d3k(2π)3ρk(t)ϕk(t),1cd3rjA=1cd3r(d3k(2π)3jk(t)eikr)(4πcd3k(2π)3ak(t)eikr)=4πd3k(2π)3d3k(2π)3jk(t)ak(t)d3rei(k+k)r=4πd3k(2π)3d3k(2π)3jk(t)ak(t)(2π)3δ3(k+k)=d3k(2π)34πjk(t)ak(t),(7)S2=dtd3k(2π)3{ρk(t)ϕk(t)4πjk(t)ak(t)}

次に S2S3 から ϕk の項のみを集めて Sc とすると,
(8)Sc=dtd3k(2π)3{12k24πϕk(t)ϕk(t)ρk(t)ϕk(t)}

ここで, 式 (9-14) の ϕ(r,t) 及び ρ(r,t) の複素共役をとってみると,
ϕ(r,t)=d3k(2π)3ϕkeikr,ρ(r,t)=d3k(2π)3ρkeikr

このとき kk の変数変換を行ってみると, 例えば ϕ の場合では次となる:
ϕ(r,t)=d3k(2π)3ϕkeikr,[(cf.)ϕ(r,t)=d3k(2π)3ϕkeikr]

これを式 (9-14) の ϕ と比較すると ϕk=ϕk が成り立つことが分かる.また同様なことが ρ についても成り立つから, 式 (9-17) の複素共役も含めて次が言える:
ϕk(t)=ϕk(t),orϕk(t)=ϕk(t),whereϕk=4πk2ρk(t)ρk(t)=ρk(t),orρk(t)=ρk(t),(9)ϕk(t)=4πk2ρk(t)=4πk2ρk(t)=ϕk(t)ϕk(t)=4πk2ρk(t)

従って, 式 (9-17) とこの式 (9) を式 (8) に代入すると,
Sc=dtd3k(2π)3{12k24πϕkϕkρk(t)ϕk(t)}=dtd3k(2π)3{12k24π4πk2ρk(t)4πk2ρk(t)ρk(t)4πk2ρk(t)}=dtd3k(2π)3{124πk2ρk(t)ρk(t)4πk2ρk(t)ρk(t)}(10)=dtd3k(2π)3{124πk2ρk(t)ρk(t)}

更に, 式 (9-16) から次が言える:
(11)ρk(t)=jejeikqj(t),ρk(t)=ieieikqi(t)

これを上の式 (10) に代入すると,
Sc=dtd3k(2π)3{124πk2ρk(t)ρk(t)}=dtd3k(2π)3{124πk2jejeikqj(t)ieieikqi(t)}(12)=dtijeiej{12d3k(2π)34πk2eik(qiqj)}

このとき, 問題 9-3 で求めた式 (8) 及び式 (9) から, グリーン関数 G(x) について次が言える:
(13)G(x)=14π|x|=d3k(2π)3eikrk2d3k(2π)34πk2eikr=1|x|

これを上式 (12) に用いるならば,
Sc=dtd3k(2π)3{124πk2ρk(t)ρk(t)}=dtijeiej{12d3k(2π)34πk2eik(qiqj)}(14)=dtijeiej{121|qiqj|}=12dt[ijeiej|qiqj|]


すなわち, 我々はこのクーロン相互作用 Sc を「物質(matter) の作用 Smat」 の中に含めることにする:

(9-30)Smat=S1+Sc=dti(mi2q˙i212jeiej|qiqj|)

そして, 全体の作用を S=Smat+Sint+Srad と書き表わすことにする.従って, 電磁場の作用 S3 を2つの部分に分けた訳である:S2+S3=Sc+Srad+Sint. 従って, S=S1+S2+S3=S1+Sc+Srad+Sint=Smat+Srad+Sint
Sc は瞬間的なクーロン相互作用」に寄与する.そして残りは「輻射場:Srad」と呼ぶことにする.(輻射場は瞬間場に対する補正を表わす.例えば, 全体の効果は遅れを伴うものであり, 光の速さを超えて作用することはないからである).
輻射場の作用Srad は, S3 から ϕk を含む項を差し引いたものである.すなわち,
Srad=12dtd3k(2π)3(a˙ka˙kk2c2akak)(9-31)=12dtd3k(2π)3(a˙1ka˙1kk2c2a1ka1k+a˙2ka˙2kk2c2a2ka2k)

この Srad は, まさに「輻射振動子の作用」である!.

輻射振動子と粒子の相互作用」の作用積分 Sint は, 式(9-28)の S2 から ϕk の含まれる項を除いたものである.従って次となる:

(9-32)Sint=dtd3k(2π)34πjkak=4πdtd3k(2π)3(j1,ka1k+j2,ka2k)

a1ka2k について全作用 S を変分すると, 運動方程式 (9-21) と式 (9-22) が得られることは明らかである.[2]S=Smat+Sint+Srada1ka2k の変分に関係するのは, 明らかに SradSint だけである.問題 9-4 … Continue reading

式 (9-16) から jk=jejq˙j(t)eikqj(t) である.これを式 (9-32) の作用 Sint に代入して, より明示的に書き表わそう. aqj を (縦成分, 横成分) の成分表示をするならば, ak=(0,a1k,a2k) 及び q˙j=(q˙kj,q˙1j,q˙2j) となるので, q˙j(t)ak=q˙1ja1k+q˙2ja2k である.よって作用 Sint は次となる:

Sint=dtd3k(2π)34πjkak=4πdtd3k(2π)3jejq˙j(t)akeikqj(t)(9-33)=4πdtd3k(2π)3jej(a1kq˙1j+a2kq˙2j)eikqj(t)

ただし q1jq2jk に垂直な方向への qj の成分である.よって, 非相対論的力学と電気力学の全ての法則は, 次の命題(proposition)
にまとめられる.すなわち,「式 (9-30), 式 (9-31), 式 (9-33) の和である作用 S は, 変数 qj(t),a1k(t),a2k(t) の経路の変分に対して停留値をとる」:
δS=0,S=Smat+Srad+Sint
ただし,
Smat=dti(mi2q˙i212jeiej|qiqj|)Srad=12dtd3k(2π)3(a˙1ka˙1kk2c2a1ka1k+a˙2ka˙2kk2c2a2ka2k)Sint=4πdtd3k(2π)3jej(a1kq˙1j+a2kq˙2j)eikqj(t)

量子電気力学は, これらの経路について eiS/ を積分する結果として生じるものである」.それは次節で記述される.

References

References
1 式 (9-24) から式 (9-26) の作用積分はどのようにして得られたのかと疑問に思う必要はない.高橋康:「量子力学を学ぶための解析力学入門」に次のような文章があった:

「作用積分 S 中のラグランジアン L は適当に選んでおいて, 「作用積分 S を極値にする」という条件を課すことによって, 運動方程式を得ることが出来る.簡単な力学系では,ラグランジアン L として, 運動エネルギーT とポテンシャルエネルギー V の差をとっておけばよいが, 更に複雑な系では, 与えられた運動方程式を得るように L を逆算しなければならない.これには色々と推論する以外に一定の方法はない!」.

2 S=Smat+Sint+Srada1ka2k の変分に関係するのは, 明らかに SradSint だけである.問題 9-4 で述べたオイラー=ラグランジュ方程式は, この場合には k 空間に於ける式と考え, 変数 a1k 及び a2kak と記すならば次とすればよいであろう:
(1)iki(L(ak/ki))+tL(ak/t)Lak=0

このとき関係するラグランジアン密度は次である:
(2)L=Lrad+Lint,Lrad=12a˙k212k2c2ak2,Lint=4πjkak

従って, 例えば ak=a1k についてのオイラー=ラグランジュ方程式は次となる:
kxL(ak/kx)+kyL(ak/ky)+kzL(ak/kz)+tLa˙kLak=tLa˙kLak=t122a˙k+12k2c22ak4πjk=0a¨1k+k2c2a1k=4πj1,k

だが, この結果はその右辺が式 (9-21) と一致していない!.しかしながら, 図1の右図を見れば分かるように, 偏極ベクトル ϵ(1)ϵ(2) の位置関係は (ϵ(1),ϵ(2),k) がこの順で右手系となるように選定するのであった.よって, 右図の k の場合は, 左図の位置関係と全く同じであることになる.従って, 右辺の量 4πj1,k は実質的に 4πj1k に等価だと考えて良いのであろう(?!).