調和振動子としての束縛電荷へのエネルギー転移とドップラー効果について

前ブログ記事「電磁波の放射について」の続きとして D.Jackson (1st Edition) の § 13.2 の抜粋 及び ランダウ=リフシッツの § 71 の抜粋を示しておこう.

Landau-Lifshitz-picture

ランダウとリフシッツの肖像


調和振動子としての束縛電荷へのエネルギー転移

荷電粒子による光波の散乱が起こった場合の, エネルギー即ち運動エネルギーE の時間変化の割合 dE/dt とエネルギー転移量 ΔE を求めてみよう.dE=Fdr=dpdtdr なので,

(1)dEkindt=dpdtdrdt=dpdtv

電磁場中の電荷 e に対する運動方程式
(2)dpdt=eE+ecv×H

及び, ベクトル解析の式から (v×H)v=0 を式 (1)に用いると次となる:
(3)dEkindt=dpdtv=(eE+ecv×H)v=eEv

この等式の右辺は, 単位時間の間に場が荷電粒子に対して成す仕事である.仕事をするのは電場成分だけである.磁場はその中を運動する電荷に対して仕事をしない.これは磁場が電荷に及ぼす力が常に電荷の速度に直交していることに基づくのである.従って, 電子 e に為される全仕事量 ΔE は次となる:
(4)ΔE=eEvdt

この右辺に, 前ブログ記事の E(t) の Fourier 変換式, そして r(t) の Fourier 変換式を t 微分したものを用いると,
ΔE=eEvdt=eEr˙dt=e(12πE(ω)eiωtdω)(12πiωr(ω)eiωtdω)dt=edωdωiωr(ω)E(ω)12πdtei(ω+ω)t

ここで, デルタ関数の定義式の一つから,
(5)δ(x)=12πeikxdk12πei(ω+ω)tdt=δ[(ω+ω)]=δ(ω+ω)

これを上式の最後の部分に用いる.するとデルタ関数の性質から
ΔE=edωdωiωr(ω)E(ω)δ(ω+ω)(6)=edωiωr(ω)E(ω)

このとき,
iωr(ω)E(ω)dω=0iωr(ω)E(ω)dω+0iωr(ω)E(ω)dω=0iωr(ω)E(ω)dω+0iωr(ω)E(ω)dω(7)=0[iωr(ω)]E(ω)dω+0iωr(ω)E(ω)dω

また, 複素数 Z=a+ib について Z+Z=2a が言える.よって, 式 (6) と式 (7) より ΔE は,
ΔE=eiωr(ω)E(ω)dω=e0[iωr(ω)]E(ω)dω+e0iωr(ω)E(ω)dω(8)=2eRe0iωr(ω)E(ω)dω

更に, 式中の r(ω) に前ブログ記事の式 (59) を代入すると,
ΔE=2eRe0iωemE(ω)ω02ω2iωγE(ω)dω=2e2mRe0iω(ω02ω2)iωγ|E(ω)|2dω=2e2mRe0iω[(ω02ω2)+iωγ](ω02ω2)2+ω2γ2|E(ω)|2dω=2e2mRe0iω(ω02ω2)+ω2γ(ω02ω2)2+ω2γ2|E(ω)|2dω(9)=2e2m0ω2γ(ω02ω2)2+ω2γ2|E(ω)|2dω

γ が小さい場合, 被積分関数は近似的には ω=ω0 付近で鋭いピークを持つ Lorentz 型の線輪郭を与える.その結果, 電場を含む因子はその ω=ω0 での値で近似できる.すると上式 (8) は dx=d(ω/γ) として, 次のように近似できる:
(10)ΔE=2e2m|E(ω0)|20x2[ω02γ2x2]2+x2dx

上式中の積分の値は π/2 であり ω0/γ には依存しない.従って, エネルギー転移 ΔE は次となる:
(11)ΔE=2e2m|E(ω0)|2π2=πe2m|E(ω0)|2

この結果は,「外電磁場による非相対論的な振動子へのエネルギー転移を与える一般的な式」である.

ドップラー効果

波数ベクトルの定義に立ち返り, 次の成分を持つ波数4元ベクトルを導入する:

(12)kμ=(ωc,k)

これらの量が実際に 4元ベクトルを作ることは, 4元ベクトル xμ との積をとると, スカラーすなわち波の位相
(13)kμxμ=(ωc,k)(ct,r)=ωtkr

となることから明らかであろう.波数ベクトルの定義 k=ωcn と式 (12) から分かるように, 波数4元ベクトルの2乗はゼロに等しい:
(14)kμkμ=(ωc,k)(ωc,k)=(ωc)2k2=ω2c2ω2c2nn=0

波数4元ベクトルの変換則を使うと, 所謂ドップラー効果, すなわち観測者に対して「運動している光源」から出る波の振動数 ω の, その光源が「静止している基準系 (K0)」に於ける同じ光源の「固有振動数 ω0」に比べての変化を, 容易に考察することができる.
V を光源の速度, すなわち K 系に対する基準系 K0 の速度とする.4元ベクトルの一般的な変換公式によって次が得られる ( K 系の K0 系に対する速度は V である ):
(15)k(0)0=k0Vck11V2c2

これに k0=ω/c 及び, 放出される波の方向と光源の運動の方向との間の (K 系での) 角度を α とすると k0=ω/c , k1=kcosα=(ω/c)cosα となり, これらを代入し ωω0 で表わすと次が得られる:
(16)ω=ω01V2c21Vccosα

これが求める公式である.Vc の場合には,
(17)ω0ω(1Vccosα)

更に, もし角度 α があまり π/2 に近くないならば次となる:
(18)ωω0(1+Vccosα)

α=π/2 のときは,
(19)ω=ω01V2c2ω0(1V22c2)

であり, この場合, 振動数の相対的変化は, 比 V/c の2乗に比例することが分かる:
Δωωω0=ω02(Vc)2

上記の事柄を利用して, 次の D.Bohm :「量子論」の第2章にある 問題 4 を考えてみよう:

問題 4 : 最初静止していた電子に強さ I, 波長 λ0 の光線を T 時間に当てたとする.非相対論的理論(v/c1) に於ける Doppler 変移は,

(20)λλ02λ0vcsin2ϕ2

であることを示せ.また, これは次に等しいことも示してみよ:
(21)λλ02Wλ0mc2sin2ϕ2

ただし W は入って来る光ビームから得られる全エネルギーとする.

【 解答例 】 まずこの場合には, 速度 v で運動する電子が光源になっていて, それを静止系 K で観測する場合であることに注意する.そこで式 (17) に於いて三角関数の倍角の公式を用いると,

(22)ω0=ω(1vccosϕ)=ω[1vc(12sin2ϕ2)]ω+ω2vcsin2ϕ2

ただし仮定から v/c1 に比べて微小であるとして無視する近似を行っている.ω=2π/λ の関係を用いて, これを λ の表現に書き直すならば,
(23)ωω0=ω2vcsin2ϕ22πλ2πλ0=2πλ2vcsin2ϕ2

この両辺に λλ0 を掛け合わせて整理すると目的の式 (20) が得られる:
(24)λλ0=λ02vcsin2ϕ2

また p=W/c であるから,
(25)p=mv=Wcvc=Wmc2

この関係を上式(24)に代入すれば式(21)も得られる:
(26)λλ0=2λ0vcsin2ϕ2=2λ0Wmc2sin2ϕ2