問題 9-7 の解答例

Feynman-Hibbs cover

Problem 9-7
Show, for the vacuum state, the mean value of a1ka1l is (/2kc)δkl. Develop a formula for the mean of (a1ka1k)r for integral r and explain thereby how the mean of such quantities as (a1ka1k)r(a1pa1p)s can be got for pk. Show that the mean of (a1k)2 or (a1k)2 vanishes. Show that the mean of the product of any odd number of a’s is zero and that you can compute the expectation value of any product of a’s or a’s for the vacuum state.[1]校訂版では mean を expectation に書き換えている.しかし, 式 (8-84) で与えられる期待値の定義と, 式 (5-46) … Continue reading


( 解答 ) 問題 8-5 より, 真空状態即ち基底状態 Φ0 に於ける F=QαQβ の期待値は, 式( 8.85)で 与えられることを確認した:

F=Φ0|QαQβ|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0QαQβΦ0(1)=2ωαδαβΦ0|1|Φ0

またこの場合の「基準座標 Q0,,QN1a1k,a2k を考える」のであった.よって, 基底状態 Φ0 を式 (9-43) の規格化された波動関数とすれば, F=a1ka1l の平均値すなわち期待値は次となる (ωk=kc に注意する):
Φ0|a1ka1l|Φ0=2ωkδklΦ0|1|Φ0=2kcδkldxΦ0(x)Φ0(x)(2)=2kcδkl

次以降の課題に対しては, 基準座標 Qi の表記による一般化した議論を行うことにする.その際に, 複素座標 Qα を用いる場合には Qα=Qα であるから, それを式 (8-79) のようにそれを2つの実数座標 QC,QS で表わし, それらを N 個の基準座標とすればよいことに注意する.
(3)Qα=12(QαCiQαS),QαC=12(Qα+Qα),QαS=i2(QαQα)

問題 8-5 での議論から, QαCQαS を一緒にしたものを N 個の基準座標 Qi とするならば, 基底状態 Φ0 はそれらの基準座標 Qi の実関数 ϕi(Qi)N 個の積で表わすことが出来た.そして基底状態 Φ0 及び Φ0|F|Φ0 は次で与えられた:
Φ0=Aexp{12αωαQαQα}=Aα=012(N1)exp{ωα2QαC2}exp{ωα2QαS2}(4)Aϕ0(Q0)ϕ1(Q1)ϕN2(QN2)ϕN1(QN1),ϕi(Qi)=exp(ωi2Qi2),Φ0|F|Φ0=dQ0dQN1Φ0FΦ0=|A|2dQ0CdQ12(N1)CdQ0SdQ12(N1)Sμ=012(N1)exp{ωμQμC2}F(5)×ν=012(N1)exp{ωνQνS2}

この場合の F=(QαQβ)r または (QαQα)r は, 問題 8-5の 式 (3) と2項定理から,
(QαQβ)r=12r(QαC+iQαS)r(QβCiQβS)r=12rm=0rrCm(QαC)rm(iQαS)mn=0rrCn(QαC)rn(iQαS)n,(6)(QαQα)r=12r(QαC2+QαS2)r=12rm=0rrCm(QαC)2(rm)(QαS2)2m

従って F=(QαQβ)r の場合 (ただし αβ ), 式 (5) は
F=Φ0|(QαQβ)r|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0(QαQβ)rΦ0

である.従って,
F=|A|2γα,βdQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2)×dQαCdQαSdQβCdQβS12rm=0rrCm(QαC)rm(iQαS)mn=0rrCn(QβC)rn(iQβS)n(7)×exp(ωαQαC2)exp(ωαQαS2)exp(ωβQβC2)exp(ωβQβS2)

この式中の積分を I1 及び I2 とする:
I1dQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2),I2dQαCdQαSdQβCdQβS12rm=0rrCm(QαC)rm(iQαS)mn=0rrCn(QβC)rn(iQβS)n×exp(ωαQαC2)exp(ωαQαS2)exp(ωβQβC2)exp(ωβQβS2)

まず, 積分 I1 はファインマン=ヒッブスの巻末にある次の公式
(8)eax2dx=πa
を利用して計算できる:
(9)I1=dQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2)=(πωγ)2=πωγ

また積分 I2 については, 式 (8) を部分積分することで, 次の公式が得られることに注意する.ただし b=0 の場合には, 明らかに (b1)!!1 とすべきことに注意する: [2]式(10)の公式が成立するすることは,以下のように示すことが出来る: r が奇数のときは被積分関数は奇関数となるので明らかにゼロとなる.r … Continue reading
(10)xbeax2dx={(b1)!!(2a)b/2πab:even0b:odd
ただし, n!! は次を表わす (岩波:数学公式に用いられている記号に従った):
(11)n!!={n(n2)(n4)42[n:偶数]n(n2)(n4)31[n:奇数]
積分 I2 は, この結果を利用することで計算できる.
I2=12rm=0rn=0rimnrCmrCndQαC(QαC)rmexp(ωαQαC2)dQαS(QαS)mexp(ωαQαS2)×dQβC(QβC)rnexp(ωβQβC2)dQβS(QβS)nexp(ωβQβS2)
結果は r が偶数の場合のみ次となる:
I2=12rm=0rn=0rimnrCmrCn(rm)/2(rm1)!!(2ωα)(rm)/2πωα×m/2(m1)!!(2ωα)m/2πωα×(rn)/2(rn1)!!(2ωβ)(rn)/2πωβ×n/2(n1)!!(2ωβ)n/2πωβ=(4ωαωβ)rπωαπωβm=0rn=0rimnrCmrCn(rm1)!!(m1)!!(rn1)!!(n1)!!(12)=(4ωαωβ)rπωαπωβm=0rn=0rimnr!m!!(rm)!!r!n!!(rn)!!

ただし, この場合にも m,n が奇数の項はやはりゼロになることに注意するならば, これは次のように書き直すことが出来る:
(13)I2=(4ωαωβ)rπωαπωβj=0r/2k=0r/2(1)jkr!(2j)!!(r2j)!!r!(2k)!!(r2k)!!

すると, 式 (9) と (12) 及び問題 8-5 の結果式 (14) から, 式 (7) は r が偶数の場合には次式になる:
Φ0|(QαQβ)r|Φ0=|A|2{γα,β12(N1)πωγ}×πωαπωβ(4ωαωβ)r×j=0r/2k=0r/2(1)jkr!(2j)!!(r2j)!!r!(2k)!!(r2k)!!(14)=Φ0|1|Φ0(4ωαωβ)rj=0r/2k=0r/2(1)jkr!(2j)!!(r2j)!!r!(2k)!!(r2k)!!

r が奇数の場合には, 式 (7) はゼロとなることは明らかである.

次に F=(QαQα)r の場合を考えると, 式 (5) は次となる:

F=Φ0|(QαQα)r|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0(QαQα)rΦ0=|A|2γαdQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2)(15)×12rm=0rrCmdQαC(QαC)2(rm)exp(ωαQαC2)dQαS(QαS)2mexp(ωαQαS2)

この場合どちらの dQα 積分も, 式 (10) で b が偶数の場合の積分となる.上の場合と同様な手順によって, 結果は次となる.ただし m=1 のときは, 式 (10) の b=0 の場合に相当するから {2(rm)1}!!1 とすることに注意する:
Φ0|(QαQα)r|Φ0=Φ0|1|Φ012rm=0rrCmrm{2(rm)1}!!(2ωα)rmm(2m1)!!(2ωα)m=(4ωα)rΦ0|1|Φ0m=0rrCm{2(rm)1}!!(2m1)!!(16)=(4ωα)rΦ0|1|Φ0m=0rr!{2(rm)1}!!(2m1)!!m!(rm)!

以上の結果について, 式 (1) に相当する Φ0|QαQβ|Φ0 を検討して見よう. αβ の場合は, 式 (14) で r=1 の場合であるからゼロである. α=β の場合は, 式 (16) に於いて r=1 の場合であり, 確かに結果が式 (1) の結果と一致することが分かる:
Φ0|QαQα|Φ0=4ωαΦ0|1|Φ0×2=2ωαΦ0|1|Φ0

今度は, F=(QαQα)r(QβQβ)s の場合を考えると, 式 (5) は次となる:
Φ0|(QαQα)r(QβQβ)s|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0(QαQα)r(QβQβ)sΦ0=|A|2γα,βdQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2)×12rm=0rrCmdQαC(QαC)2(rm)exp(ωαQαC2)dQαS(QαS)2mexp(ωαQαS2)×12sn=0ssCndQβC(QβC)2(sn)exp(ωβQβC2)dQβS(QβS)2nexp(ωβQβS2)(17)=(4ωα)r(4ωβ)sΦ0|1|Φ0m=0rr!{2(rm)1}!!(2m1)!!m!(rm)!n=0ss!{2(sn)1}!!(2n1)!!n!(sn)!

さらに F=(Qα)2 または F=(Qα)2 の場合であるが, これは既に問題 8-5 で示してあるようにゼロである:
(18)Φ0|Qα2|Φ0=0,Φ0|Qα2|Φ0=0

さらに今度は, 任意の奇数個の Qα または Qα の積の平均値を考える. n を奇数としたときの (Qα)n または (Qα)n は 2項定理から次に表せる:
(Qα)n=12n/2(QαCiQαS)n=12n/2r=0nnCr(QαC)nr(iQαS)r,(19)(Qα)n=12n/2(QαC+iQαS)n=12n/2r=0nnCr(QαC)nr(iQαS)r

すると (Qα)n または (Qα)n の両者を略して Qn で表わすなら, その平均値は次となる:
Φ0|Qn|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0QnΦ0=|A|2γαdQγCexp(ωγQγC2)dQγSexp(ωγQγS2)(20)×12n/2r=0ni±rnCrdQαC(QαC)nrexp(ωαQαC2)dQαS(QαS)rexp(ωαQαS2)

このとき n が奇数であったから, 任意の r について nrr の何れかは必ず奇数となる.従って最後の2積分 dQαCdQαS は, 両者のどちらかが式 (10) の b が奇数の場合となるのでゼロとなることが分かる.よって, この式全体は必ずゼロとなると言える:
(21)Φ0|Qαn|Φ0=0,Φ0|Qαn|Φ0=0

最後に QαQβ の任意の積の期待値を考えよう.式 (19) を用いるならば, r,s を任意の整数としたときの (Qα)r(Qβ)s は,
(22)(Qα)r(Qβ)s=12r/2m=0rrCm(QαC)rm(iQαS)m×12s/2n=0ssCn(QαC)sn(iQαS)n

と表せる.これは式 (6) に於いて Qβ の冪指数を r から s に変えたものに過ぎない.従って, この平均値は結果式 (14) を参照することで次に書けるであろう:
Φ0|(Qα)r(Qβ)s|Φ0=dQ0dQ1dQN1Φ0(Qα)r(Qβ)sΦ0(23)=Φ0|1|Φ0(4ωα)r/2(4ωβ)s/2j=0r/2k=0s/2(1)jkr!(2j)!!(r2j)!!s!(2k)!!(s2k)!!

以上の結果をこの問題の解答とするには, 基準座標 Qα,Qβ などを全て a1k,a1p などで置き換えるだけである.

References

References
1 校訂版では mean を expectation に書き換えている.しかし, 式 (8-84) で与えられる期待値の定義と, 式 (5-46) で与えられる演算子の「平均値」の定義は一致する.そのことを以下で確認しておく:
{ A=dxf(x)Af(x)(5.46)A=dQ0dQ1dQNΦ0AΦ0(8.84)

具体的に, 基準座標 Qi が運動量のデカルト座標系 pi とした場合に一致することを見て行こう.問題 5-6 で述べたように, 基準座標 Qi=pi の特性関数は χpx,py,pz(x)=eipx/ であるから, 式 (5-36) 及び式 (5-37) そして式 (5-40) に相当するものは, 運動量が連続量であるために和は積分に置き換わり次となる:
(a)Fpx,py,pz=d3xχpx,py,pz(x)f(x)=d3xeipx/f(x),(b)f(x)=dpx2πdpy2πdpz2πχpx,py,pz(x)Fpx,py,pz=d3p(2π)3eipx/Fpx,py,pz,(c)A=pxpypzpi|Fpx,py,pz|2  A=dpx2πdpy2πdpz2πpi|Fpx,py,pz|2
ここで具体例的に f(x) として系の基底状態 Φ0 の場合を考えてみよう.その際にその基底ケット |Φ0 を運動量演算子 p の固有ケット |p で展開したとする:
(d)f(x)=Φ0(x)=x|Φ0,|Φ0=d3p(2π)3|pp|Φ0

すると, 基底状態 Φ0 に於ける運動量演算子 pi の期待値 pi は, 上の展開式 (d) を |Φ0 に用るならば, p|p=(2π)3δ(pp) であることから次となる:
pi=Φ0|pi|Φ0=d3p(2π)3Φ0|pp|pid3p(2π)3|pp|Φ0=d3p(2π)3p|Φ0d3p(2π)3pip|Φ0p|p=d3p(2π)3p|Φ0d3p(2π)3pip|Φ0(2π)3δ(pp)=d3p(2π)3pip|Φ0p|Φ0(e)=d3px2πd3py2πd3pz2πpi|p|Φ0|2
この式 (e) は, ちょうど式 (c) に相当するものになっている.従って, この場合の Fpx,py,pz は式 (a) の表現に一致することが分かる:
Fpx,py,pz=p|Φ0=p|(d3x|xx|)|Φ0=d3xp|xx|Φ0(f)=d3xx|px|Φ0=d3xeipx/Φ0(x)
他方, 式 (5-46) の「平均値」の表現はこの場合, 次のようになる:
pi=d3xΦ0(x)piΦ0(x)=d3xΦ0|xpix|Φ0=Φ0|pi(d3x|xx|)|Φ0(g)=Φ0|pi|Φ0
これはちょうど式 (e) の期待値に一致している!.よって, 式 (5-46) の平均値と式 (8-84) の期待値の定義は一致することが, 具体的に基準座標が運動量の場合に示すことが出来た.一般的に, 任意の演算子(オブザーバブル) A に対して, 式 (5-46) の「平均値」と式 (8-84) の「期待値」の定義は一致することになる.
2 式(10)の公式が成立するすることは,以下のように示すことが出来る:
r が奇数のときは被積分関数は奇関数となるので明らかにゼロとなる.r が偶数の場合には, 部分積分により次となることに注意すればよい:
xreax2dx=[xr+1r+1]xr+1r+1(2ax)eax2dx=2ar+1xr+2eax2dxxr+2eax2dx=r+12axreax2dx xreax2dx=r12axr2eax2dx=r12ar32axr4eax2dx==r12ar32a12aπa