Feynman QED Thirteenth Lecture

自由粒子のディラック方程式解

Thirteenth Lecture
自由粒子の波動関数に対する解を求める際には γ を用いた形式のディラック方程式 (9-9) を用いるのが便利であろう:

γμ(iμecAμ)ψ=mcψ

第 10 講の定義 a/=γμaμ を用いると, [1][ブログ註] μ は共変ベクトル, そして μ … Continue reading
A/γμAμ=γμAμ=(γ0,γ)(A0,A)=(γ0,γ)(A0,A)=γ0A0γA=γ0A0γA=γ0A0γ1Axγ2Ayγ3Az,/γμμ=γμμ=(γ0,γ)(0,)=(γ0,γ)(0,)=γ00+γ=γ00+γ=γ0ct+γ1x+γ2y+γ3z
そしてディラック方程式は次のように書くことが出来る:
(13-1)(i/ecA/)ψ=mcψ

(このとき,「量 a/=γμaμ はローレンツ変換の下で不変である」ことを思い出すべし).
確率密度とカレント(確率流束密度)を 4次元的な形に表現すること(put into) が必要である.特定な表現においては, 確率密度とカレントは次で与えられる:
ρ=ψψ=ψ1ψ1+ψ2ψ2+ψ3ψ3+ψ4ψ4,j=cψαψ,j1=cψα1ψ=cψ1ψ4+cψ2ψ3+cψ3ψ2+cψ4ψ1

「標準表現」(Standard Representation)に於ける ψ の「相対論的なエルミート共役(adjoint)」即ち「随伴スピノルψ~ が,
ψ~=ψβ=ψγ0S.R. (Standard Representation)

であるならば, [2]ψ は4成分の「行ベクトル(column vector)」である.ψ のアジョイント ψ~ は4成分の「列ベクトル(row … Continue reading 確率密度とカレントは次のように書くことが出来るであろう:
ρ=ψ~γ0ψ=ψ~βψ=ψββψ=ψψ,jk=cψ~γkψ=cψγ0γkψ=cψαkψ

これを証明するには ψ~ψβ で置き換え, そして β2=1 また βγk=γ0γk=αk であることに注意すればよい.


【 問題 】(1) ψ の随伴スピノール ψ~ は, 次の「随伴方程式」を満たすことを示せ:

(13-3)ψ~(i/ecA/)=mcψ~

(2) 式 (13-1) と式 (13-3) から,「確率密度保存」の式
μjμ=0

が成り立つことを示せ.(第 10 講の問題も参照のこと).


〈解答例〉(1) まず, ディラック方程式 (13-1) のエルミート共役を考える.γ 行列のエルミート共役および /A/ のエルミート共役は,

(1)γ0=γ0=γ0,γ=γ, /=γ00+γ=γ00γ,A/=γ0A0+γA

となることに注意すると,
ψ(i/ecA/)=iψ(γ00+γ)ecψ(γ0A0γA)=iψ(γ00γ)ecψ(γ0A0+γA)(2)=mcψ
この両辺に右から γ0=β を掛けると, 式(10-4) の γ 行列の交換関係
(3)γ0γ0=I,γγ0=γ0γ

を利用することで,「随伴方程式」(13-3) が得られる:
iψ(γ0γ00γγ0)ecψ(γ0γ0A0+γγ0A)=iψ(γ0γ00+γ0γ)ecψ(γ0γ0A0γ0γA)=iψγ0(γ00+γ)ecψγ0(γ0A0γA)=iψ~γμμecψ~γμAμ
従って,
iψ~γμμecψ~γμAμ=ψ~(i/ecA/)=mcψγ0=mcψ~,(4)ψ~(i/ecA/)=mcψ~
(2) 式 (13-1) に左から随伴スピノル ψ~ を掛け合わせると,
(5)iψ~γμ(μψ)ecψ~γμAμψmcψ~ψ=0

他方, 随伴方程式 (13-3)
(6)i(μψ~)γμecψ~γμAμmcψ~=0

に, 右から ψ を掛け合わせると,
(7)i(μψ~)γμψecψ~γμAμψmcψ~ψ=0

(5) – (6) の減算を行うと,
(8)iψ~γμ(μψ)+i(μψ~)γμψ=0(μψ~)γμψ+ψ~γμ(μψ)=0

従って,
(9)μ(ψ~γμψ)=0

上式の ρ 及び jk を用いて, これを書き直すと,
μ(ψ~γμψ)=0(ψ~γ0ψ)+k(ψ~γkψ)=ctρ+1ck(cψ~γkψ)=1cρt+1cxkjk=0
従って, 次の「連続の方程式」すなわち「確率密度保存則」が示されたことになる:
(10)μjμ=0ρt+j=0,jμ(ρc,j1,j2,j3)


一般に, 演算子 N の「アジョイント(ディラック共役)」は N~ で表記される.ディラック共役 N~ は,「出現する全ての γ 行列の順序を逆にし, 明示的な各々の虚数単位 i  (ただし γ 行列中に含まれる i は除く) を i で置き換えたもの」で, それ以外は N と同じである.例えば,
N=γ1γ2N~=γ2γ1=N,N=γ5=iγ0γ1γ2γ3N~=iγ3γ2γ1γ0=γ5,γ5=(0II0)
次の特性は, 非相対論的量子力学に於いて非常に有用な性質である「エルミート性(N=N) の代わりとなるものである:

(13-4)(ψ~2Nψ1)=(ψ~1N~ψ2)

自由粒子の場合, ポテンシャルは存在しない.従って A/=0 であり, ディラック方程式は次となる:

(13-5)i/ψ=mcψori/ψ=mcψ

これを解くために, 解として次式を試してみよう:
(13-6)ψ=ueipx/=ueipμxμ/

ψ は 4 成分の波動関数であるから, この試行解が意味するのは「成分の各々がこの形をしている」ということである.すなわち,
(ψ1ψ2ψ3ψ4)=(u1u2u3u4)eipx/

従って u1,u2,u3,u4 は「列ベクトル(column vector)」の成分であり, そして u は「ディラックスピノル」(Dirac spinor) と呼ばれる.今や問題は「試用解がディラック方程式を満足するためには, どんな制限が up に課されなければならないか」である.ψ の各成分に対する演算 μ は, 各成分に ipμ/ を掛け合わせることだ.従って, この演算を ψ に行うと次の結果を生じる:
μψ=μueipνxν/=ipμueipνxν/=ipμψ

よって, 式 (13-5) は次となる:
(13-7)i/ψ=iγμμψ=iγμ(ipμ)ψ=γμpμψ=p/ψ=mcψ

従って,「p/u=mcu である」(制限 I) ならば, 仮定した解は条件を満たすものとなるであろう.記述を簡単化するため, 今度は「粒子は x-y 平面中を運動する」と仮定しよう.従って,
p0=Ecp1=pxp2=pyp3=0or,p0=Ecp1=pxp2=pyp3=0

この条件下では p/=γ0E/cγ1pxγ2py である.「標準表現」(S.R.) では,
γ0=(1001)γ1,2=(0σx,yσx,y0)whereσx=(0110),σy=(0ii0)

従って p/mc は次となる:
Ecγ0pxγ1pyγ2mcI=(E/c00E/c)+(0pxσx+pxσx0)+(0pyσy+pyσy0)+(mc00mc)(13-8)=(Ecmc00px+ipy0Ecmcpxipy00pxipyEcmc0px+ipy00Ecmc)
よって 式 (13-7) を成分で表すならば次となる:
(13-9a)(Ecmc)u1(pxipy)u4=0(13-9b)(Ecmc)u2(px+ipy)u3=0
(13-9c)(pxipy)u2(Ec+mc)u3=0(13-9d)(px+ipy)u1(Ec+mc)u4=0
u1/u4 は, 式 (13-9a) から, そしてまた式 (13-9d) からも決定される.式 (13-6) が解であるためには, それらの値は一致していなければならない.従って,
u1u4=pxipyE/cmc=E/c+mcpx+ipy(px+ipy)(pxipy)=(E/c+mc)(E/cmc)

すなわち, 次の条件が必要である:
(13-10)px2+py2+m2c2=E2c2E2=c2p2+m2c4

この「条件」は驚くことではない.この条件が述べているのは「pν は相対論的な全エネルギー式を満たすように選ばなければならない」(制限 II) ということである.

同様にして, 式 (13-9b) と式 (13-9c) は u2/u3 について解くことが出来て, 次を与える:

u2u3=px+ipyE/cmc=E/c+mcpxipy(px+ipy)(pxipy)=(E/c+mc)(E/cmc)

これもやはり条件(13-10)となる.

同じ条件を正確に得られるもっとエレガントなやり方は, 直接に式 (13-7):p/ψ=mcψ から出発することである.その場合, この式 (13-7′):p/u=mcup/ を掛け合わせることで次を得る:

p/p/u=p/(p/u)=p/(mcu)=mc(p/u)=mc(mcu)=m2c2u

式(10-13):a/2=a2=aμaμ を用いると,
p/p/=pp=p0p0p2=E2c2px2py2

従って, 条件は次となる:
(13-11)p2=E2c2px2py2=m2c2oru=0

前者は前に得られたものと同じである.そして後者は (波動関数でない)自明な解に過ぎない.

自由粒子のディラック方程式には, 線型独立な2つの解が存在することは明らかである.それは, 仮定した解をディラック方程式に代入すると u1, u4 そして u2, u3 という u の対に対する条件しか得られないからである.2成分がゼロである互いに独立した解を選らぶと便利である.従って 2つの解の u は, 次とすることが出来る:

(13-11)u+=(F00cp+)=(E+mc200c(px+ipy))andu=(0Fcp0)=(0E+mc2c(pxipy)0)

ただし次の記法が用いられている:
(13-12)F=E+mc2,p+=px+ipy,p=pxipy

これらの解は規格化されない.

運動している電子のスピン定義(DEFINITION OF THE SPIN OF A MOVING ELECTRON)

2つの線形独立な解とは何を意味しているのであろうか?.それは, 更に特定することが可能な「ある物理量」が存在することであるに違いない.それは波動関数を一意的に(uniquely) 決定するであろう.例えば, 粒子が定常状態となる座標系に於いては, スピンの向きに2つの可能性がある.数学的に言えば,「固有値方程式 p/u=mcu に2つの解が存在すること」が含意するのは「p/ と可換な演算子の存在」である.この演算子は発見する必要がある.γ5p/ と反交換することに注意すべし(observe).すなわち γ5p/=p/γ5.また, 任意の演算子 W/ は,「Wp=0 であるならば p/ と反交換する」ことにも注意すべし.なぜなら,

(10-9)W/p/=p/W/+2Wp

これら2つの反交換する演算子を組み合わせた W/γ5p/ と交換する演算子である.すなわち,
(W/γ5)p/=W/(p/γ5)=W/p/γ5=+p/W/γ5=p/(W/γ5)

そして次に必要なのは, 演算子 W/γ5 の固有値を見出すことである [3][ブログ註] 原書では γ5 の定義が異なっていた.そこで固有値を実数にするために, 虚数単位 i を付加した演算子 iγ5W/ … Continue reading.それらの固有値をsで示すならば,
(13-13)(W/γ5)u=su

可能な s の値を見出すために, 式 (13-13) に W/γ5 を掛け合わせてみる.式 (10-13) より W/γ5=γ5W/, また W/2=WW であることに注意すると,
(W/γ5)(W/γ5)u=W/W/γ5γ5u=W/2Iu=WWu=s(W/γ5)u=s2u

すなわち,
WW=s2

もし WW1 とするならば (s2=1 であるから), 演算子 W/γ5 の固有値 s±1 である.WW=1 を選択することの重要性は以下の通りである:
粒子が静止している系では p=0 すなわち px=py=pz=0 そして p0=E/c0 である.すると Wp=0 と仮定したから,
pW=p0W0pW=p0W0=0W0=0

従って WW=W02WW=WW=1 すなわち WW=1 である.これは「粒子が静止している座標系では, 演算子 W は単位長の (第 0 成分はゼロの) ベクトルであること」を述べている.

粒子が x-y 平面内で運動しているとき W/γ3 に選ぶと, 演算子 W/γ5 に対する方程式は,

γ3γ5u=su

となる.第 10 講義で導出された関係を用いるならば, これは静止している粒子(stationary particle) の場合, [4]静止している粒子(stationary particle)の場合 γ0u=u である.式(13.11)に於いて p+=px+ipy=0,p=pxipy=0 とすると, \begin{equation*} u=\begin{pmatrix} … Continue reading
γ3γ5u=(0σ3σ30)(0110)u=(σ300σ3)u=σ3γ0u=σ3u=su

となる.この選択により W/σ3 演算子となり, スピンとの関係が明確に示される.もし「up/u=muW/γ5u=su の両方を満足する」と定義するならば, これは u を完全に特定する.これが示しているのは「粒子は運動量 pμ で運動し, そして(粒子が静止して見える座標系, すなわち粒子と一緒に移動する座標系に於ける) そのスピンは Wμ 軸に沿って正 (s=+1) または負 (s=1) を持っている」ということである.[5][ブログ註] W/=γμWμ=γ0W0γW=γ3 となるには, 量 Wμ=(0,0,0,1) である. 従って, この時の Wμz … Continue reading


【 問題 】式 (13-11) の波動関数の最初は s=+1 の解を, そして2番目は s=1 の解であることを示せ.


〈解答例〉最初の u の場合には,

σ3γ0u=(σ300σ3)(F00cp+)=(1000010000100001)(F00cp+)=(F00cp+)=+1u

また2番目の u の場合は,
σ3γ0u=(σ300σ3)(0Fcp0)=(1000010000100001)(0Fcp0)=(0Fcp0)=1u

以上から, 最初の u は固有値が s=+1 の解に, そして2番目の u は固有値が s=1 の解であることが分かる.


自由電子の波動関数を得る別の方法は, 式 (10-16) のような波動関数の同値変換 u=Su を実行することである.もし電子の初期状態がスピンの上向き下向きが z 方向にあって静止しているとするならば, 座標空間の k 方向を速さ v で動いている電子に対するスピノールは,

(A)u(k)=Su,u=2mc2u0,u0=(1000)or(0100)

ただし規格化は, 後の式 (13-14):(u~u)=2mc2 に依っている.

式 (10-15) から, 同値変換子 S を次とする:[6][ブログ註] 同値変換子 S を次としてみよう: \begin{equation*} S=\exp\left[\frac{\rho}{2}\gamma^{0}\gamma^{3}\right],\quad \tanh\rho =\frac{v}{c}=\beta, \quad \cosh\rho = … Continue reading

S=exp[ρ2γ0γk],coshρ=11β2,sinhu=β1β2,tanhu=vc=β

また, 式 (10.14) と同様にして次も言える:
(B)S=exp[ρ2γ0γk]=coshρ2+γ0γksinhρ2

すると双曲線関数の公式 cosh2x=2cosh2x1 から,
cosh2x=1+cosh2x2coshρ2=12(1+coshρ)=12(1+11β2),2mc2coshρ2=mc21β2+mc2=E+mc2=F,sinh2x=2sinhxcoshxsinhx=sinh2x2coshx,2mc2sinhρ2=2mc2sinhρ2coshρ2=2mc2sinhρ22mc2coshρ2=mc2sinhρ2mc2coshρ2=cmv1β2E+mc2=c|p|E+mc2=E2m2c4E+mc2=Emc2
すると式 (B) の S は,
S2mc2={E+mc2+γ0γkEmc2}

従って, 式 (A) は
u(k)=Su=S2mc2u0=[E+mc2+γ0γkEmc2]u0

ここで F=E+mc2 そして α=γ0γ,αk=γ0γk と書き, また E2m2c4=cpk と記すならば,
u(k)=1E+mc2{E+mc2+γ0γk(E+mc2)(Emc2)}u0=1F{E+mc2+αkE2m2c4}u0=1F(E+mc2+αkcpk)u0=1F(E+mc2+cαp)u0
pxy-面内に在る場合にこの式が与える結果は, まさに規格化因子 1/F を持った式 (13-12) である [7][ブログ註] xy-平面内にあるとき pz=0 であるから, 例えば u=(1 0 0 0)T の場合を計算するならば, \begin{align*} \bigl(E+mc^{2}+c\mb{\alpha}\cdot … Continue reading

静止している電子の場合 γ0u0=u0 であることに気付くと αγ0=γ0(γ0γ)=γ であるから, スピノール uk
u(k)=1F(E+cαp+mc2)u0=ccF(Ec+pαγ0γ0)γ0u0+cFmcu0=cF(Ecγ0pγ)γ0γ0u0+cFmcu0=cF(γ0Ecγp+mc)u0
すなわち,

u(k)=cF(γμpμ+mc)u0=cF(p/+mc)u0

と書くことが出来る.この u(k) は, 自由粒子に対するディラック方程式
(p/mc)uk=0

に対する解であるのは明らかである.なぜなら, これにより式 (13-11) が成り立つからである:
(p/+mc)(p/mc)=p2m2c2=0,p2=m2c2

波動関数の規格化(NORMALIZATION OF THE WAVE FUNCTION)

非相対論的量子力学の場合, 平面波は 1cm3 中に粒子を見出す確率が 1 になるように, すなわち ψψ=1 となるように規格化される.相対論的な平面波に対する類似的な規格化は, 例えば随伴スピノール ψ~=ψγ0 を用いて次のようになるであろう:

ψψ=ψγ0γ0ψ=ψ~γ0ψ=uu=u~γ0u=1

しかしながら (4元カレントの第 0 成分は cψψ であるから), 量 ψψ の変換は 4元ベクトルの第 0 成分と同じである [8][ブログ註] § 3.5 より,「確率密度」 ρ=ψψ と「確率の流れ」 j=cψαψ … Continue reading.従って, この規格化はローレンツ不変(invariant) ではないであろう.しかし uu を適切な 4元ベクトルの第 0 成分に等しくするならば, 相対論的に不変な規格化は行えるであろう.例えば, E/c は 4元運動量 pμ の第 0 成分である.従って波動関数は,
(D)uu=u~γ0u=2E

によって規格化できるであろう.比例定数の 2 は後の公式化のために便宜的に選ばれている.s=+1 状態の場合の u~γ0u を計算してみる.pz=0 と仮定したから
p+p=(px+ipy)(pxipy)=px2+py2=px2+py2+pz2=p2,E2=c2p2+m2c4

従って,
(C1u)(C1u)=(C1u~)γ0(C1u)=(F00cp)(F00cp+)×C12=(F2+c2p+p)C12={(E+mc2)2+c2p2}×C12={E2+2Emc2+m2c4+E2m2c4}×C12=2Ec2(E+mc2)C12=2E
ただし C1 は, 式 (13-12) の波動関数に掛け合わせた規格化因子である.式 (D) のように u~γ0u2E に等しくなるには, 規格化因子 C11F=1E+mc2 に選ばなければならない:
2E(E+mc2)C12=2EC12=1E+mc2C1=1E+mc2=1F

(u~u) の表現で言うならば, この規格化条件は次となる:
(u~u)=uγ0u=(1F)2(F00cp)(1000010000100001)(F00cp+)=1F(F00cp)(F00cp+)=1F(F2c2pp+)=Fc2p2F=E+mc2E2m2c4E+mc2=E+mc2(Emc2)=2mc2
同じ結果が s=1 の場合にも得られる.従って, 規格化条件は次とすることが出来る:
(13-14)(u~u)=uγ0u=2mc2

同様にして, 以下の式が真であることを示すことが可能である:
(u~γ1u)=uγ0γ1u=1F(F00cp)(0σ1σ10)(F00cp+)=1F(F00cp)(cp+00F)=1F(Fcp++Fcp)=c(p++p)=c(px+ipy+pxipy=2px)=2cpx,(u~γ2u)=uγ0γ2u=1F(F00cp)(0σ2σ20)(F00cp+)=1F(F00cp)(icp+00iF)=1F(icFp++icFp)=ic(p++ip=ic(ipx+py+ipx+py=2py)=2cpy,(u~γ3u)=uγ0γ3u=1F(F00cp)(0σ3σ30)(F00cp+)=1F(F00cp)(0cp+F0)=0
全ての γ について, 様々な始状態と終状態間の行列要素が分かっていると便利であろう.そこで算出結果を表 13-1 に示しておこう.

表 13-1.xy-平面中を運動する粒子の行列要素

Matrix N (u~Nu) F1F2(u~2Nu1), s1=+1,s2=+1 F1F2(u~2Nu1), s1=+1,s2=1 F1F2(u~2Nu1), s1=1,s2=1 F1F2(u~2Nu1), s1=1,s2=+1
1 2mc2 F2F1c2p1+p2 0 F2F1c2p1p2+ 0
γ1 2cpx F2cp1++F1cp2 0 F2cp1+F1cp2+ 0
γ2 2cpy iF2cp1++iF1cp2 0 iF2cp1iF1cp2+ 0
γ3 0 0 F2cp1++F1cp2+ 0 F2cp1F1cp2
γ0 2E F2F1+c2p1+p2 0 F2F1+c2p1p2+ 0
γ2γ3 0 0 iF2F1+ic2p1+p2+ 0 iF2F1ic2p1p2
γ3γ1 0 0 F2F1+c2p1+p2+ 0 F2F1c2p1p2
γ1γ2 2icE iF2F1ic2p1+p2 0 iF2F1+ic2p1p2+ 0
γ0γ1 2icpy F2cp1+F1cp2 0 F2cp1F1cp2+ 0
γ0γ2 2icpx iF2cp1+iF1cp2 0 iF2cp1+iF1cp2+ 0
γ0γ3 0 0 F2cp1+F1cp2+ 0 F2cp1+F1cp2
γ5γ1= 0 0 F2F1c2p1+p2+ 0 F2F1c2p1p2
γ5γ2 0 0 iF2F1+ic2p1+p2+ 0 iF2F1ic2p1p2
γ5γ3 2mc2 F2F1+ic2p1+p2 0 F2F1c2p1p2+ 0
γ5γ0 0 0 F2cp1+F1cp2+ 0 F2cp1F1cp2
γ5 0 0 F2cp1+F1cp2+ 0 F2cp1F1cp2

【注意1】ただし, 量 p2+, p2, F2, F1, p2 は, 各々次で定義される:
p2+=p2x+ip2y=p2exp(iθ2),p2=p2xip2y=p2exp(iθ2),F2=E2+mc2,F1=E1+mc2,p2=(E2mc2)F=(Emc2)(E+mc2)=E2m2c4

【注意2】(訳註) ガンマ行列の表現を変えたため, 原書の算出結果を大分修正したので注意するべし.また原書では「第 5 列目は, 第3列目 (s1=+1, s2=+1 の場合)の複素共役になっており, また第 6 列目は, 第 4 列目 (s1=+1, s2=1 の場合) の複素共役にマイナス符号を付けたものになっている」と述べているが, やはりガンマ行列表現の変更により, 全てがそうとは言えなくなってしまった.
【極限の場合】粒子 1 が静止した陽電子の場合を得るには, 表中で F1=0, p1+=1=p1 とするならば, 表が与えるのは F2(u~2Nu1) である.もし両粒子とも静止した陽電子である場合には, 表中で F1=F2=0, p1+=p2+=1 とすれば, 表が与えるのは (u~2Nu1) である.

References

References
1 [ブログ註] μ は共変ベクトル, そして μ は反変ベクトルとして振る舞うことに注意する:
μ=(ct,x,y,z)=(ct,),μ=(0,)=(ct,)

微分 μ が「共変的」であることについて, ディラックは「一般相対性理論」の中で次のように述べている:
「場の量を Q としよう.これを4つの座標の何れについても微分することが出来る.微分した結果を
Qxμ=Q,μ=μQ

と書く.下付き添字をコンマの後ろに書いたら, それは常にこの種の微分を表すものとする.添字 μ を下に書くのは,
左辺の分母にある上付きの μ とバランスさせるためである.
そのバランスを納得するには, 点 xμ から近くの点 xμ+δxμ に移ったとき
起こる Q の変化が
δQ=Qx0δx0+Qx1δx1+Qx2δx2+Qx3δx3=Qxμδxμ=Q,μδxμ=μQδxμ

で与えられることを見ればよい」
2 ψ は4成分の「行ベクトル(column vector)」である.ψ のアジョイント ψ~ は4成分の「列ベクトル(row vecctor)」であり,
標準表現に於いては次となる:
ψ=(ψ1ψ2ψ3ψ4),ψ~=ψβ=(ψ1ψ2ψ3ψ4)

β を掛け合わせることで第 3 成分と第 4 成分の符号が変わり, それに加えてエルミート共役 ψ とすることで「列ベクトル」から
「行ベクトル」となる.随伴スピノル ψ~ は「ディラック共役なスピノル」とも呼ばれる.
3 [ブログ註] 原書では γ5 の定義が異なっていた.そこで固有値を実数にするために, 虚数単位 i を付加した演算子 iγ5W/ を考えている.
4 静止している粒子(stationary particle)の場合 γ0u=u である.式(13.11)に於いて p+=px+ipy=0,p=pxipy=0 とすると,
u=(E+mc2000)oru=(0E+mc200)

従って,次となるからである:
γ0u=(1001)(E+mc2000)=(E+mc2000)=u,andγ0u=(1001)(0E+mc200)=(0E+mc200)=u
5 [ブログ註] W/=γμWμ=γ0W0γW=γ3 となるには, 量 Wμ=(0,0,0,1) である.
従って, この時の Wμz 方向の単位ベクトル e^3 である.
(ハルツェン=マーチンより) 演算子 Σp^ は, ハミルトニアン H 及び p と交換する.p^ は運動量 p の向きの単位ベクトル p/|p| である.「スピン演算子 s^=σ/2」の運動方向成分 sp^=σp^/2 は”良い“量子数であり, 解を分類するのに用いることが出来る.この量子数を「状態のヘリシティー (helicity), 螺旋度」と呼ぶ.
ヘリシティー演算子 σp^/2 の可能な固有値 λ は,
12Σp^=12(σ00σ)p^=σ2p^I=s^p^s^p^u=λu,λ={+12(positive helicity)12(negative helicity)

である.この場合に考えているのは Σp^ に相当したものなので, 固有値は s=2λ=±1 である.
6 [ブログ註] 同値変換子 S を次としてみよう:
S=exp[ρ2γ0γ3],tanhρ=vc=β,coshρ=11β2,sinhρ=β1β2

すると, 式 (10-15) と同様にして次式が言える:
γ0=S1γ0S=γ0coshρ+γ3sinhρ,γ1=S1γ1S=γ1,γ2=S1γ2S=γ2γ3=S1γ3S=γ0sinhρ+γ3coshρ
これはちょうど, 式 (10-21) の「ローレンツ変換」の逆変換の式になっている:
γ0=γ0+vc2γ31β2,γ1=γ1,γ2=γ2,γ3=γ3+vγ01β2,β=vc
7 [ブログ註] xy-平面内にあるとき pz=0 であるから, 例えば u=(1 0 0 0)T の場合を計算するならば,
(E+mc2+cαp)u0=(E+mc2)(1000)+c(pxα1+pyα2)(1000)=(E+mc2000)+cpx(0σxσx0)(1000)+cpy(0σyσy0)(1000)=(E+mc2000)+cpx(0001)+cpy(000i)=(E+mc200c(px+ipy))=(F00cp+),u(k)=1cF(E+mc200c(px+ipy))=1F(F00cp+)
8 [ブログ註] § 3.5 より,「確率密度ρ=ψψ と「確率の流れj=cψαψ は一緒になって「4元カレント」を形成し,
連続方程式 μjμ=0 を満たすのであった:
cρ=cψψ,j=cψαψ,jμ=(cρ,j)μjμ=(ct,)(cρ,j)=ρt+j=0