
「コヒーレント状態」についてブログ記事を書く準備として, まずはそこで用いる基礎的な事柄をまとめておくことにする.
同時確率分布(joint probability distribution)
まず初めに, 松原望著:「入門確率過程」の§ 4.2 から関連する事柄を要約しておく.
一般に2つの確率変数 があるとし, これを2次元のベクトル として表そう.2変数を同時に考えるのは, それらの間に互いに関係があると考えるからである. であり同時に である確率 を, 2次元確率変数 の「同時確率分布」または「結合確率分布」という.特に , が連続型の確率変数である場合の は, 2次元の確率密度関数であり「同時確率密度関数」または「結合確率密度関数」と呼ばれ, 次を満たす:
ただし は「
標本空間」で, 2次元ユークリッド空間 (平面) の全範囲のことである.
この によって事象 ( の部分集合) の確率は, が区間であるならば積分で定義される:
, が連続型の確率変数の場合, , の「単独の確率密度関数」は,「同時確率密度関数」から次で与えられる:
これらを「
周辺確率密度関数」と言い, それらが与える確率分布を「
周辺確率分布」と言う.このとき注意すべきは,「
同時確率分布 が与えられたときに初めて の関係が定まる」ということである.従って, 周辺確率分布はこの同時確率分布から導かれるが, 逆はそうではない.すなわち から を求めることは出来ない.なぜなら, 同じ を与える は無限に存在するからである.
自己相関関数とウィーナー=ヒンチンの定理
次に, 森下巌,小畑秀文著:「信号処理」の§ 3.5 の文章を要約したものを示す.
信号値が確率的な法則に従って不規則に変動するものを「不規則信号」という.不規則信号 の統計的性質が時刻 によって変化しない場合, その不規則信号は「定常」( stationnary )であると言う.定常不規則信号の場合, 全ての確率密度関数は時刻 によって変化しない.全ての標本信号から計算した時間平均が互いに一致し, かつそれが集合平均とも一致する不規則信号を「エルゴード性不規則信号」( ergodic random sigmal )と言う.不規則信号 は全て, 定常, エルゴード性で, かつ平均値がゼロであるとする.そのとき,
を の「
自己相関関数」(
auto-correlation function )と言う.
自己相関関数は「時刻 の信号値 とそれから だけ後の信号値 の間にどれだけの相関があるかを与えるもの」である. 一般に, 不規則信号 の全エネルギー は無限大となるが, エネルギーの時間平均すなわちパワー は有限な値となる.このパワーが各周波数成分に渡ってどのように分布しているかを知るには「
パワースペクトル」を求めれば良い.
今, 一個の標本信号を採用し, これを で表現する.そのフーリエ変換はその全エネルギーが発散してしまうので存在しない.そこで, に於いては と一致するが, それ以外の区間ではゼロとなる信号 を考える.このフーリエ変換は存在し次となる:
「
パーシバルの定理」より, 次が成り立つ:
この右辺中の量 を の「
エネルギースペクトル密度」(
energy spectral density) と言う.またその単位時間あたりの量を「
パワースペクトル密度」と言う:
また, のとき となるので, の「
パワースペクトル」は次で与えられる:
この は, ある特定な標本信号の波形 のパワースペクトルを与えるだけで, 信号確率集合 の統計的性質は反映していない.「
不規則信号 のパワースペクトル は, 個々の標本信号のパワースペクトルの『集合平均』で定義する」のが自然である:
このように定義した不規則信号 のパワースペクトル は, その自己相関関数 と密接な関係がある.すなわち,「
自己相関関数 のフーリエ変換はパワースペクトル に等しくなる」:
これを「
ウィーナー・ヒンチンの定理」という.