コヒーレント状態の時間変化

前述した「コヒーレント状態」の波動関数は,「形が拡がらずに前後に運動する波束となる」ことが期待される.実際, コヒーレント状態の波動関数は, そのような時間変化をするであろうか?.詳しく調べて見よう.
コヒーレント状態の時間変化



前述のブログ記事から, |α の時間発展は次であった:

(3.117)eiH^t/|α=e|α|22nαnn!ei(n+12)ωt|n=ei12ωte|α|22n(αeiωt)nn!|n

また, 個数状態の波動関数 ψn(q)=q|n の具体的な形は次であった:
(1)ψn(q)=q|n=1π1/42nn!exp(q22)Hn(q)

従って, 上式 (3.117) に左から q| を掛け合わせ, 式 (1) を代入することで, コヒーレント状態の波動関数
ψα(q,t) は次のように求まる:
ψα(q,t)=q|eiH^t/|α=ei12ωte|α|22n(αeiωt)nn!q|n=ei12ωte|α|22nαneinωtn!1π1/42nn!eq22Hn(q)=ei12ωte|α|22eq221π1/4nαneinωt2nn!Hn(q)
ここで, 一般に α は複素数であるから α=|α|eiϕ として次と置く:
(2)zαeiωt2=|α|ei(ωtϕ)2,  zn=αneinωt2n

すると上式は次に書ける:
(3)ψα(q,t)=ei12ωte|α|22eq221π1/4nznn!Hn(q)

ここで更に,「エルミート多項式の母関数( generating function )S(q,s) を利用する:
(4)S(q,s)eq2(sq)2=n=0Hn(q)n!sn
このときのs は「補助変数」と呼ばれる.すると式 (3) の最後の部分は, ちょうど補助変数 s=z の場合になっている!.よって, 式 (2) も用いることで式 (3) は次のように書ける:
ψα(q,t)=ei12ωte|α|22eq221π1/4eq2(zq)2=1π1/4exp(i12ωt)exp[12q2+2zqz2|α|22]=1π1/4exp(i12ωt)exp[q22+2|α|qei(ωtϕ)|α|22{1+ei2(ωtϕ)}]=1π1/4exp(i12ωt)exp[q22+2|α|qcos(ωtϕ)|α|22{1+cos2(ωtϕ)}]×exp[i2|α|qsin(ωtϕ)+i|α|22sin2(ωtϕ)]=1π1/4exp(i12ωt)exp[q22+2|α|qcos(ωtϕ)|α|2cos2(ωtϕ)]×exp[i2|α|qsin(ωtϕ)+i|α|2sin(ωtϕ)cos(ωtϕ)]=1π1/4exp(i12ωt)exp[12{q2|α|cos(ωtϕ)}2](5)×exp[i2|α|qsin(ωtϕ)+i|α|2sin(ωtϕ)cos(ωtϕ)]

従って, 確率密度 |ψα(q)|2 は次のように書ける:
(6)|ψα(q)|2=1πexp[{xλcos(ωtϕ)}2],λ2|α|

これは,『確率密度関数はガウス波束であり, その中心が「振幅が λ=2α である古典的な調和振動子の軌道y=λcos(ωtϕ) と同じ調和振動をする」ことを示している!』.そして普通ならば, 波束は時間と共に拡がることが予期されるのであるが, この特別な波束は「時間が経っても形を変えない!」ことも分かる.
このことを示すために, 式 (5) の「コヒーレント状態の波動関数」ψα(q) の実数部分および式 (6) の「コヒーレント状態の確率密度」|ψα(q)|2 を, 固有値 α=2 の場合でシミュレーレートするアニメーション, 及びその Python プログラムを以下に示しておく.アニメーション中, 赤線は波動関数の実数部分を表しており, 桃色の太線が確率密度関数である.

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import numpy as np
import math
import matplotlib.pyplot as plt
from matplotlib import animation, rc
from IPython.display import HTML
 
# Figureのインスタンス生成
fig, axe = plt.subplots(1, 1, figsize=(10, 8))
 
amp = math.pow(math.pi, -1/4)
alpha =2
dt=1/25
T=2*math.pi/dt
time = math.ceil(2*T)
x0 = alpha*math.sqrt(2)
x = np.linspace(-6, 6, 400)
sift=x0*x0+0.5
 
ims = []
for t in range(time):
    pt= -x0*math.sin(t*dt)
    xt= x0*math.cos(t*dt)
    y = amp*np.exp(-1.j*pt*xt/2-1.j*t*dt/2)*np.exp(pt*x*1.j-(x-xt)**2/2)
    yy = np.conj(y)*y
    im1 = axe.plot(x, y.real+sift, linewidth=2, color='red')
    im2 = axe.plot(x, yy.real+sift, linewidth=7, alpha=0.7, color='magenta')
    ims.append(im1+im2)
 
anim = animation.ArtistAnimation(fig, ims, interval=80)
 
# 全エネルギー E=T+V+0.5=2V+0.5=2*V(a)+0.5=2*(sqrt(2)*alpha)^2+0.5=2*alpha^2+0.5,
hy = 1/2*x*x # harmonic potential V(x)=x^2/2, 
axe.plot(x,hy, color='blue', linewidth=3, alpha=0.5, linestyle="--")
rectangle = 10*np.heaviside(x+alpha*math.sqrt(2),4.5)-10*np.heaviside(x-alpha*math.sqrt(2),4.5)
axe.plot(x, rectangle, color='gray', linestyle="--") # ground state is sifted a=sqrt(2)*alpha
 
axe.set_xlim([-6, 6])
axe.set_ylim([sift-0.8, sift+0.8])
axe.set_yticks([7.7, 7.9, 8.1, 8.3, 8.5, 8.7, 8.9, 9.1, 9.3])
axe.grid()
#axe.legend()
# Jupyter notebookの場合は
#plt.show()
 
# Google Colaboratoryの場合必要
rc('animation', html='jshtml')
plt.close()
anim

【 補足 】 波動関数の周期的な時間依存性

複素数であるコヒーレント状態の波動関数 ψα(q,t) は, カラー表示を利用することで表すことが出来るようだ.
そこで Wolfram Cloud によって, 複素数である式 (5) のコヒーレント状態波動関数をカラー表示でグラフ化したものを示しておく:

コヒーレント状態の時間発展をカラー表示

図 1. 複素数のカラー表示手法によって, コヒーレント状態の波動関数 ψα(q,t) の時間変化を時間間隔 Δa=pi/2 ごとに描いたもの.波動関数の絶対値 |ψα(q,t)| はその波形で表わされ, その位相部分(偏角)はカラー(色)によって表わされている.従って, 端点の波束中で偏角が変化していない場合には純色である.しかし, 偏角が変化し振動している場合には, 色が変化するので虹色模様になっているのが分かる.

図は時間間隔 Δa=π/2 ごとに描いたものである.これを見ると,「波動関数の絶対値 |ψα(q,t)| の形は, 時間発展しても一定に保たれる」ことが確認される.しかし, 注意すべきは波動関数の位相を表現するその波形の色である.調和振動子の周期は 2π であるが,「この量子力学的波動関数の周期は明らかにそうなっていない.実はその周期は 4π となる」.そのことを「Visual Quantum Mechanics」の § 7.3.2 からの抜粋で記しておく.

7.3.2. 周期的な時間依存性

1次元調和振動子の量子力学的状態の時間発展は,「時間依存するシュレディンガー方程式」によって記述される:

(1)iddtψ(x,t)=Hψ(x,t),H=2md2dx2+k2x2

この方程式の一般解は, そのエネルギー固有関数 ϕn(x) の重ね合わせとして表される:
(2)ψ(x,t)=n=0cneiEntϕn(x)

このとき, 式 (2) から次のことが言える:

【 振動状態の時間対称性 】
調和振動子ポテンシャルのシュレディンガー方程式の任意の解は次の特性を持つ:

(7.53)ψ(x,t+π)=eiπ/2ψ(x,t)

従って,
(7.54)ψ(x,t+2π)=eiπ/2ψ(x,t+π)=eiπψ(x,t)=ψ(x,t)

【 振動状態の周期的な時間依存性 】
全ての初期状態 ϕ に対して, 式 (1) の解 ψ(x,t) の周期は T=4π である.しかし, 「波動関数」 ψ の周期は 4π であるけれども, 量子力学的「状態」(そして特に位置の確率密度 |ψ(x,t)|2 ) の周期は 2π となる.それは, 相当する古典力学系の周期に等しい.