式 (9-49) などの修正について

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D.F.Styer による校訂版では, § 9-4 の式たちがだいぶ修正されている.ここでは, Feynman の原書の式の形をなるべく保ちながら, それらの導出過程などを脚注として加筆し(または加筆部分には黄色アンダーラインを施した), また, 記号や式を修正したものを示しておこう (大事な修正部分には赤色アンダーラインを施し, 修正した主な式は青色表示とした).

9-4 場と物質の相互作用(INTERACTION OF FIELD AND MATTER)

輻射場と物質の相互作用を扱うことは形式的には難しくない.作用の式である式 (9-30), 式 (9-31) そして式 (9-32) から, 我々が扱うべき系は明らかに輻射場と相互作用している物質系であり, その振幅 \(K(2,1)\) は次の式から求めなければならないことが分かる:

\begin{equation}
\def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}}
\def\reverse#1{\frac{1}{#1}}
\def\Bppdiff#1#2{\frac{\partial^{2} #1}{\partial #2^{2}}}
\def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\def\oodiff#1#2{\frac{d #1}{d #2}}
\def\BK#1#2{\langle #1 | #2 \rangle}
\def\BraKet#1#2#3{\langle #1 | #2 | #3 \rangle}
\def\mb#1{\mathbf{#1}}
\text{Amplitude}\ K(2,1)=\int \prod_{i,\,\mb{k}}\mathscr{D}\mb{q}_i\mathscr{D}a_{1\mb{k}}\mathscr{D}a_{2\mb{k}}
\exp\left[\frac{i}{\hbar}\left(S_{mat}+S_{int}+S_{rad}\right)\right]
\tag{9-44}
\end{equation}

すなわち, 核 \(K\) は変数 \(\mb{q}_j\) 及び \(a_{1\mb{k}}\), \(a_{2\mb{k}}\) の経路積分を求めることになる.輻射場の振動子座標 \(\mb{a}_{\mb{k}}\) の座標積分は直ちに求めることが出来る.なぜなら, それらの座標は2次形式で表されているからである.その積分は次の副節にて行う [式 (9.60) からスタートする] [1]式 (9.44) の振幅は, §3-7 の「多数の系が相互作用する場合」に対する振幅と見做すことが出来る.§3-7 … Continue reading

原子からの放射(Emission from an Atom)

この問題を複雑にしている原因の一部は, 多くの座標と状態が存在することによる混乱である.そこで, まずは簡単な問題を扱って, その内容に慣れるようにしよう.摂動論を利用して, 1個の原子によって光が放射される確率の問題を解くことにする(光と物質の相互作用 \(S_{int}\) は小さいと仮定して1次までBorn展開する).
\(S_{int}\) を無視するならば, 輻射場と物質は独立な系である.原子単独の状態(states of the atom alone) は様々なエネルギー \(E_N\) の固有状態の1つであり, その波動関数を \(\varPsi_N(\mb{q})\) としよう.ただし, \(\mb{q}\) は原子の全粒子の \(\mb{q}_i\) を表わし \(N\) は色々な値を取り得るとする.輻射場の状態は, 全ての整数 \(n_{1\mb{k}}\) , \(n_{2\mb{k}}\) の値を与えることにより定義される.物質と輻射とを合わせた系のエネルギーは,

\begin{equation}
E=E_N+\sum_{\mb{k}}(n_{1\mb{k}}+n_{2\mb{k}})\,\hbar\,\omega_{\mb{k}},\quad \text{where}\quad \omega_{\mb{k}}=kc
\tag{9-45}
\end{equation}

である.この状態の波動関数は積の形になる:
\begin{equation}
\varPsi=\varPsi_N(\mb{q})\,\varPhi(n_{1\mb{k}},\,n_{2\mb{k}})
\tag{9-46}
\end{equation}

ただし \(\varPhi(n_{1\mb{k}},\,n_{2\mb{k}})\) は「輻射場に対する波動関数」であり, それは調和振動子の波動関数の積になっている.
原子による光子の放射を扱うには, 初期状態として原子がある準位 \(M\) に在り, 光子は存在しない場合 (すべての \(n_{1\mb{k}}\), \(n_{2\mb{k}}\) がゼロ) を考える.この波動関数は次である:
\begin{equation}
\varPsi_i=\varPsi_M(\mb{q})\,\varPhi_0,\qquad
\varPhi_0=\exp\left[\,-\sum_k \frac{ck}{2\hbar}\bigl(a^{*}_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}}+a^{*}_{2\mb{k}}a_{2\mb{k}}
\bigr)\,\right]
\tag{9-47}
\end{equation}

ただし \(\varPhi_0\) は式 (9-43) で与えられている.終状態では, 原子は他の状態 \(N\) に在り, 光子も存在する.その光子の運動量を \(\hbar\mb{k}\) とし偏極は \(1\) とする.すると問題 9-8 により, 輻射場だけの波動関数は \(\varPhi_1=a_{1\mb{k}}^{\,*}\varPhi_0\) (すなわち真空状態 \(\Phi_0\) に生成演算子 \(a^{*}\) が作用して光子が1つ存在する状態) であるから, 完全な終状態の波動関数とその複素共役は次となる:
\begin{equation}
\varPsi_f=\sqrt{\frac{2kc}{\hbar}}\,\varPsi_N(\mb{q})\,a_{1\mb{k}}^{\,*}\,\varPhi_0,\qquad
\varPsi_f^{\,*}=\sqrt{\frac{2kc}{\hbar}}\,\varPhi_0^{\,*}\varPsi_N^{\,*}(\mb{q})\,a_{1\mb{k}}
\tag{9-48}
\end{equation}

毎秒当たりの遷移確率を(1次まで) 求めるには, 式 (6.79) により, これらの状態間の摂動ポテンシャルの行列要素 \(V_{fi}\) が必要であることが分かる.摂動の作用は, 式 (9-32) で定義されていたような \(S_{int}\) であり, 対応するポテンシャルは次である:
\[ V=-\sqrt{4\pi}\sum_{\mb{k}’\ge0}\left(\mb{j}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}^{*}_{\mb{k}’}+\mb{j}^{*}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{\mb{k}’}\right)=-\sqrt{4\pi}\sum_{\mb{k}’\ge0}\left(j_{1,\mb{k}’}a^{*}_{1\mb{k}}+j_{2,\mb{k}’}a^{*}_{2\mb{k}’}+j^{*}_{1,\mb{k}’}a_{1\mb{k}’}+j^{*}_{2,\mb{k}’}a_{2\mb{k}’}\right)\tag{9-49}\]
ただし \(\mb{j}_{\mb{k}’}\) は, 問題9-2に示したように, 原子変数 \(\mb{q}\) に依存する量であることに注意する [2]初期状態 \(n\) から終状態 \(m\) への第1ボルン近似による遷移振幅, すなわち1次の遷移振幅は式 (6-77) … Continue reading
この摂動ポテンシャルの行列要素は, 式(6.71)より, そして\(j\) のみが \(\mb{q}\) に依存することに注意すると次となる [3]この摂動ポテンシャルの行列要素 \(V_{fi}\) は, 初期状態が式 (9-47) の \(\Psi_i=\Psi_i(\mb{q},a_{1\mb{k}’},a_{2\mb{k}’})\) で終状態が式 (9-48) の … Continue reading
\begin{align}
V_{fi}&=-\int d^{3}\mb{q}\int \prod_{\mb{k}’\ge 0} da_{1\mb{k}’}\,da_{2\mb{k}’}\,\sqrt{\frac{2kc}{\hbar}}\,\varPhi_0^{\,*}\varPsi_N^{\,*}(\mb{q})\,a_{1\mb{k}}\notag\\
&\qquad \times \sqrt{4\pi}\sum_{\mb{k}’\ge 0} \left(j_{1,\mb{k}’}a^{*}_{1\mb{k}’}+j_{2,\mb{k}’}a^{*}_{2\mb{k}’}+j^{*}_{1,\mb{k}’}a_{1\mb{k}’}
+j^{*}_{2,\mb{k}’}a_{2\mb{k}’}\right)\varPsi_M(\mb{q})\,\varPhi_0
\tag{9-50}
\end{align}

すると, この行列要素 \(V_{fi}\) は次のように書くことが出来る:
\begin{align}
V_{fi}&=-\sum_{\mb{k}’\ge 0}\sqrt{\frac{8\pi kc}{\hbar}}\int \prod_{\mb{k}’}da_{1\mb{k}}\,da_{2\mb{k}’}\,\varPhi_0^{\,*}\,
a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}\,\varPhi_0\int d^{3}\mb{q}\,\varPsi_N^{\,*}(\mb{q})j_{1\mb{k}’}\varPsi_M(\mb{q})
\tag{9-51}
\end{align}

この結果は「式 (9-50) の被積分関数に於いて, 積分変数が \(a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}\) の組み合わせとなる場合以外は全てゼロとなる」ことを用いている.すなわち, 真空状態に対する \(a\) の期待値は, 問題 9-7 で既に求めており, その結果から次のようになるからである:
\begin{align}
\BraKet{\varPhi_0}{a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}}{\varPhi_0}&=\int da_0\int da_1\dotsb\int da_{N-1}\,
\varPhi_0^{\,*}\,a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}\,\varPhi_0\\
&=\prod_{\mb{k}’}\int da_{1\mb{k}’}\int da_{2\mb{k}’}\,\varPhi_0^{\,*}\,a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}\,\varPhi_0
=\frac{\hbar}{2\omega_k}\delta_{\mb{k},\,\mb{k}’}\BraKet{\varPhi_0}{1}{\varPhi_0}
=\frac{\hbar}{2kc}\delta_{\mb{k},\,\mb{k}’},\\
\BraKet{\varPhi_0}{a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}}{\varPhi_0}&=\prod_{\mb{k}’}\int da_{1\mb{k}’}\int da_{2\mb{k}’}\,
\varPhi_0^{\,*}\,a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}\,\varPhi_0=\BraKet{\varPhi_0}{\text{(奇数個の \(a\) )}}{\varPhi_0}=0,\\
\BraKet{\varPhi_0}{a_{1\mb{k}}a_{2\mb{k}’}^{\,*}}{\varPhi_0}&=\prod_{\mb{k}’}\int da_{1\mb{k}’}\int da_{2\mb{k}’}\,
\varPhi_0^{\,*}\,a_{1\mb{k}}a_{2\mb{k}’}^{\,*}\,\varPhi_0=\frac{\hbar}{2kc}\delta_{1\mb{k},\,2\mb{k}’}=0,\\
\BraKet{\varPhi_0}{a_{1\mb{k}}a_{2\mb{k}’}}{\varPhi_0}&=\prod_{\mb{k}’}\int da_{1\mb{k}’}\int da_{2\mb{k}’}\,
\varPhi_0^{\,*}\,a_{1\mb{k}}a_{2\mb{k}’}\,\varPhi_0=\BraKet{\varPhi_0}{\text{(奇数個の \(a\) )}}{\varPhi_0}=0
\end{align}

また, 行列要素 \(\int d^{3}\mb{q}\,\varPsi_{N}^{\,*}\,\mb{j}\,\varPsi_M\) を \((\mb{j}\,)_{NM}\) と書くことにしょう.すると, 以上から式 (9-51) の行列要素として次が得られる:
\begin{align}
V_{fi}&=-\sqrt{\frac{8\pi kc}{\hbar}}\sum_{\mb{k}’}\BraKet{\varPhi_0}{a_{1\mb{k}}a_{1\mb{k}’}^{\,*}}{\varPhi_0}
\int d^{3}\mb{q}\,\varPsi_N^{\,*}(\mb{q})j_{1\mb{k}’}\varPsi_M(\mb{q})\\
&=-\sqrt{\frac{8\pi kc}{\hbar}}\sum_{\mb{k}}\frac{\hbar}{2kc}\delta_{\mb{k},\,\mb{k}’}
\bigl(j_{1\mb{k}’}\bigr)_{NM}
=-\sqrt{\frac{8\pi kc}{\hbar}}\frac{\hbar}{2kc}\bigl(j_{1\mb{k}}\bigr)_{NM}\\
&=-\sqrt{\frac{2\pi\hbar}{kc}}\bigl(j_{1\mb{k}}\bigr)_{NM}
\end{align}

毎秒当たりの遷移確率は, 問題 6-24 の結果式 (6-94) を用いることで得られる.始状態で準位 \(M\) にあるので \(E_i=E_M\), また終状態では準位 \(N\) にあるので \(E_f=E_N\) とする.そして後述するように \(E_N-E_M\equiv\hbar\omega_{NM}\) と置こう.原子系の終状態エネルギー準位 \(E_N\) は, 明らかに始状態エネルギー準位 \(E_M\) よりも低いはずであり, エネルギー減少分が放出される光子のエネルギー \(\hbar\omega=\hbar kc\) に等しい.よって, 次であるべきである:
\begin{equation}
\hbar\omega_{NM}=E_N-E_M<0,\quad E_M-E_N=\hbar\omega=-\hbar\omega_{NM},\quad\rightarrow\quad \omega=-\omega_{NM}>0
\end{equation}

また, この場合 \(M_{i\to f}=V_{fi}\) である.以上から毎秒当たりの遷移確率は次となる:
\begin{align}
\oodiff{P(i\to f)}{t}&=\frac{2\pi}{\hbar}\bigl|M_{i\to f}\bigr|^{2}\,\Bigl[\delta(E_f-E_i-\hbar\omega)
+\delta(E_f-E_i+\hbar\omega)\Bigr]\\
&=\frac{2\pi}{\hbar}\bigl|V_{fi}\bigr|^{2}\,\Bigl[\delta(E_N-E_M-\hbar kc)+\delta(E_N-E_M+\hbar kc)\Bigr]\\
&=\frac{2\pi}{\hbar}\left|-\sqrt{\frac{2\pi\hbar}{kc}}\bigl(j_{1\mb{k}}\bigr)_{NM}\right|^{2}
\,\Bigl[\delta(\hbar\omega_{NM}-\hbar kc)+\delta(\hbar\omega_{NM}+\hbar kc)\Bigr]
\end{align}

ここでデルタ関数の性質: \(\delta(ax)=a^{-1}\delta(x)\), \(\delta(-x)=\delta(x)\) を利用する.すると \(k=|\mb{k}|\ge 0\) なので, 明らかに \(\delta(k+\omega/c)=0\) であるから,
\begin{align}
\oodiff{P(M\to N)}{t}&=\frac{2\pi}{\hbar}\left|-\sqrt{\frac{2\pi\hbar}{kc}}\bigl(j_{1\mb{k}}\bigr)_{NM}
\right|^{2}\,\Bigl[\delta(-\hbar\omega-\hbar kc)+\delta(-\hbar\omega+\hbar kc)\Bigr]\notag\\
&=\frac{2\pi}{\hbar}\cdot\frac{2\pi\hbar}{kc}\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\,\left[
\delta(\hbar kc+\hbar\omega)+\delta(\hbar kc-\hbar\omega)\right]\notag\\
&=\frac{2\pi}{\hbar}\cdot\frac{2\pi\hbar}{kc}\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\,
\left[\reverse{\hbar c}\delta\left(k+\frac{\omega}{c}\right)+\reverse{\hbar c}
\delta\left(k-\frac{\omega}{c}\right)\right]\notag\\
\therefore\quad\oodiff{P(M\to N)}{t}&=\frac{2\pi}{\hbar}\cdot\frac{2\pi\hbar}{kc}\bigl|j_{1\mb{k}}
\bigr|^{\,2}_{NM}\cdot\reverse{\hbar c}\delta\left(k-\frac{\omega}{c}\right)
\tag{9-52}
\end{align}

通常では, 1つの特定な光子を励起する(放射する)問題に興味はなく, むしろ \(\mb{k}\) 空間中のある小さな立体角 \(d\Omega\) 中に光子が放出される確率を調べる.我々は, その方向に対応する全ての \(\mb{k}\) の値について和を取らなければ(すなわち積分しなければ)ならない. \(\mb{k}\) 空間の単位体積当たりの \(\mb{k}\) の値の数は \(d^{3}\mb{k}/(2\pi)^{3}\) 個であった.すなわち \(\mb{k}\) が特定な方向にある場合, その立体角 \(d\Omega\) 方向の \(\mb{k}\) の値の和を求めるには, \(k^{2}dk d\Omega/(2\pi)^{3}\) の積分が必要である [4]\(\mb{k}\) 空間に於いて, \(\mb{k}\) 方向の立体角 \(d\Omega\) は \(\displaystyle{d\Omega=\frac{dS}{k^{2}}}\) であった.従って, 立体角 \(d\Omega\) 方向の距離 \(k\) … Continue reading. 従って, 毎秒当たり1つの遷移が起こる確率は次であることが分かる (ただし3段目の変形は \(\delta(ax)=a^{-1}\delta(x)\) 及び \(\delta(-x)=\delta(x)\) を利用している)
\begin{align}
\oodiff{P}{t}&=\int \frac{d^{3}\mb{k}}{(2\pi)^{3}}\,\frac{(2\pi)^{2}}{kc}
\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\cdot\reverse{\hbar c}\delta\left(k-\frac{E_M-E_N}{\hbar c}\right)\notag\\
&=\int \frac{k^{2}dk\,d\Omega}{(2\pi)^{3}}\,\frac{(2\pi)^{2}}{kc}\,\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\,
\reverse{\hbar c}\delta\left(k-\frac{\omega}{c}\right)\notag\\
&=\frac{d\Omega}{2\pi c}\int dk\,\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\,k\,\delta(E_M-E_N-\hbar kc)
\tag{9-53}
\end{align}

これの \(k\) 積分を実行するならば, \(\mb{k}\) 方向の立体角 \(d\Omega\) 中に「偏極 \(1\) の光」が放出される割合(放出率)が得られる:
\begin{equation}
\oodiff{P}{t}=\frac{d\Omega}{2\pi\hbar c^{2}}\times\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}
\left(\frac{\omega}{c}\right)
=\frac{\omega}{2\pi\hbar c^{3}}\bigl|j_{1\mb{k}}\bigr|^{\,2}_{NM}\,d\Omega
\tag{9-54}
\end{equation}

このとき放出される光の角周波数 \(\omega\) は, 次式を満たしていたことに注意しよう:
\begin{equation}
\omega=\frac{E_M-E_N}{\hbar}=kc
\tag{9-55}
\end{equation}

References

References
1 式 (9.44) の振幅は, §3-7 の「多数の系が相互作用する場合」に対する振幅と見做すことが出来る.§3-7 の記述は次のようになっている:「多数の変数を含むもう1つの状況として2つの系が相互作用する場合がある.一方の系は質量 \(m\) の粒子から成り, その座標を \(x\) とする.もう一つの系は質量 \(M\) で座標 \(X\) の粒子から成る.これら2つの系がポテンシャル \(V(x,X)\) によって相互作用しているものとする.作用は,
\begin{equation}
S[x(t),X(t)]=\int_{t_a}^{t_b}dt\,\left[\frac{m}{2}\dot{x}^{2}+\frac{m}{2}\dot{X}^{2}
-V(x,X)\right]
\tag{3-70}
\end{equation}

であるから, 核は次となる:
\begin{equation}
K(x_b,X_b,t_b;x_a,X_a,t_a)=\int_{a}^{b}\mathscr{D}x(t)\int_{a}^{b}\mathscr{D}X(x)
\exp\left\{\frac{i}{\hbar}S[x(t),X(t)]\right\}
\tag{3-71}
\end{equation}

これは, 式 (2-25) を一般化したものとして数学的に理解できるであろう.すなわち座標 \(x\) と \(X\) となら成る抽象的な2次元空間に於ける点の運動と考えることが出来よう.しかし物理的には, 座標がそれぞれ \(x\) と \(X\) である2つの別々の粒子の運動を表すと考えた方がずっと簡単である.この場合 \(K\) は, 質量 \(m\) の粒子が時空の点 \( (x_a,t_a) \) から\( (x_b,t_b) \) へ行き, 質量 \(M\) の粒子が点 \( (X_a,t_a) \)から \( (X_b,t_b) \) へ行く振幅である」.これを今の場合に当てはめるならば, 「座標が \(\mb{q}_i\) の原子と座標が \(a_{1\mb{k}}\) 及び \(a_{2\mb{k}}\) の光子たちが始点 \(a\) から終点 \(b\) へ行く時の振幅である」となるであろう.
2 初期状態 \(n\) から終状態 \(m\) への第1ボルン近似による遷移振幅, すなわち1次の遷移振幅は式 (6-77) で与えられた:
\begin{equation}
\lambda^{(1)}_{mn}=-\frac{i}{\hbar}e^{-(i/\hbar)(E_m t_2-E_n t_1)}
\int_{t_1}^{t_2}dt\,V_{mn}(t)\,e^{(i/\hbar)(E_m-E_n)t}
\tag{6-77}
\end{equation}

摂動ポテンシャルが時間に依存しないで \(V(x,t)=V(x)\) である場合には, 時間間隔が \(0\) から \(T\) の間で \(V_{mn}\) は一定であるから次の式 (6-78) となる:
\begin{equation}
\lambda^{(1)}_{mn}\,e^{(i/\hbar)(E_m t_2- E_n t_1)}
=-\frac{i}{\hbar}V_{mn}\int_{0}^{T}dt\,e^{(i/\hbar)(E_m-E_n)t}
=V_{mn}\,\frac{e^{(i/\hbar)(E_m-E_n)T}-1}{E_n-E_m}
\tag{6-78}
\end{equation}

従って, 時間間隔 \(T\) の間の(1次までの)「遷移確率」は次の式(6-79)となる:
\begin{equation}
P(n\to m)=\big|\lambda^{(1)}_{mn}\big|^{2}=\frac{|V_{mn}|^{2}}{(E_m-E_n)^{2}}\cdot 4\sin^{2}\frac{(E_m-E_n)T}{2\hbar}
\tag{6-79}
\end{equation}

よって, 単位時間当たりの遷移確率を求めるには, 摂動ポテンシャルの行列要素 \(V_{mn}\) すなわち \(V_{fi}\) が必要である.
摂動の作用 \(\delta S\) は, 式 (9-32) の \(S_{int}\) とするのであったから, 摂動ポテンシャル \(V\) は次であると見做せる:
\begin{align}
\delta S=S_{int}&=\int dt \int \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot
\mb{a}_{\mb{k}}=\int dt\, L=\int dt\,(T-V)=-\int dt\,V,\\
\rightarrow\quad
V&=-\int_{-\infty}^{\infty} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot\mb{a}_{\mb{k}}
=-\int_{-\infty}^{0} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot\mb{a}_{\mb{k}}
-\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot\mb{a}_{\mb{k}}\\
&=-\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{\mb{k}}\cdot\mb{a}_{-\mb{k}}
-\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot\mb{a}_{\mb{k}}\\
&=-\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}{\mb{k}}}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\,\left(\mb{j}_{\mb{k}}\cdot\mb{a}_{-\mb{k}}
+\mb{j}_{-\mb{k}}\cdot\mb{a}_{\mb{k}}\right)
\end{align}

このとき, 問題 9-2 の式 (9-16) から \(\mb{j}_{-\mb{k}}=\mb{j}^{*}_{\mb{k}}\) が言える:
\begin{equation}
\mb{j}_{\mb{k}}=\sum_i e_i\,\dot{\mb{q}}_i(t)\,e^{-i\mb{k}\cdot\mb{q}_i(t)}\quad\rightarrow\quad
\mb{j}_{-\mb{k}}=\sum_i e_i\,\dot{\mb{q}}_i(t)\,e^{i\mb{k}\cdot\mb{q}_i(t)}=\mb{j}_{\mb{k}}^{\,*}
\end{equation}

また基準座標については, 式 (8-77) から \(Q^{*}_{\alpha}=Q_{-\alpha}\) が言えたから, この場合の基準座標 \(\mb{a}_{\mb{k}}\) について \(\mb{a}^{*}_{\mb{k}}=\mb{a}_{-\mb{k}}\) とすることが出来るので,
\begin{equation}
V=-\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}\mb{k}’}{(2\pi)^{3}}\,\sqrt{4\pi}\,\left(\mb{j}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{-\mb{k}’}
+\mb{j}_{-\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{\mb{k}’}\right)
=-\sqrt{4\pi}\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}\mb{k}’}{(2\pi)^{3}}\,\left(\mb{j}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}^{*}_{\mb{k}’}
+\mb{j}^{*}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{\mb{k}’}\right)
\end{equation}

そして Diracの § 10-4 にあるように, \(\mb{k}\) 空間を離散的に考えて積分を和に置き換えたものが式 (9-49) である:
\begin{align}
V&=-\sqrt{4\pi}\int_{0}^{\infty} \frac{d^{3}\mb{k}’}{(2\pi)^{3}}\,\left(\mb{j}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}^{*}_{\mb{k}’}
+\mb{j}^{*}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{\mb{k}’}\right),\\
\rightarrow &\quad
V=-\sqrt{4\pi}\sum_{\mb{k}’\ge 0}\left(\mb{j}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}^{*}_{\mb{k}’}
+\mb{j}^{*}_{\mb{k}’}\cdot\mb{a}_{\mb{k}’}\right)
=-\sqrt{4\pi}\sum_{\mb{k}’\ge 0} \left(j_{1,\mb{k}’}a^{*}_{1\mb{k}}+j_{2,\mb{k}’}a^{*}_{2\mb{k}’}+
j^{*}_{1,\mb{k}’}a_{1\mb{k}’}+j^{*}_{2,\mb{k}’}a_{2\mb{k}’}\right)
\end{align}
3 この摂動ポテンシャルの行列要素 \(V_{fi}\) は, 初期状態が式 (9-47) の \(\Psi_i=\Psi_i(\mb{q},a_{1\mb{k}’},a_{2\mb{k}’})\) で終状態が式 (9-48) の \(\Psi_f=\Psi_f(\mb{q},a_{1\mb{k}’},a_{2\mb{k}’})\) であり, 従って摂動ポテンシャルも \(V=V(\mb{q},a_{1\mb{k}’},a_{2\mb{k}’})\) となるので, 式 (6-71) に於ける積分変数 \(x_3\) を変数 \(\mb{q}_i\), \(a_{1\mb{k}’}\), \(a_{2\mb{k}’}\) の多変数積分としたものになることに注意する.
4 \(\mb{k}\) 空間に於いて, \(\mb{k}\) 方向の立体角 \(d\Omega\) は \(\displaystyle{d\Omega=\frac{dS}{k^{2}}}\) であった.従って, 立体角 \(d\Omega\) 方向の距離 \(k\) に在る微小体積 \(d^{3}\mb{k}\) は, その厚さが \(dk\) で底面積が \(dS\) とすれば, \(d^{3}\mb{k}=dk\times dS=dk\times k^{2}d\Omega\) である.