§ 7-4 について

§ 7-4 の内容が分かりずらかったので, 本文に補足メモや式の導出を付けて示しておく.

Feynman-Hibbs-cover


§ 7-4 作用が2次形式である場合の一般的結果


もし作用 S が「2次形式」 ( quadratic form ) であるならば, 多くの汎関数の遷移要素が簡単に決定できることは明らかである.これは, もう少し一般的なクラスの汎関数にまで我々の考察を拡げた方が良いことを暗示している.
用いるべき技法は § 3.5 で述べたものと同じである.例えば, 作用 S が 2 次形式の場合には,
exp[if(t)x(t)dt] の遷移要素を見積もることは簡単に出来ることを, ここで特に言及しておく.ただし f(t) は時間の任意関数である.このような汎関数の遷移要素は次に書くことが出来る:

(7-67)exp[if(t)x(t)dt]=abDx(t)exp[i(S+f(t)x(t)dt)]


【 メモ 】 この右辺は式 (7-28) と同様に簡略した形であることに注意する:

exp[if(t)x(t)dt]=dxbdxaχ(xb)abDx(t)exp[i(S+f(t)x(t)dt)]ψ(xa)abDx(t)exp[i(S+f(t)x(t)dt)]

また,「2次形式」(quadratic form )というのは, 2次の同次多項式(homogeneous polynomial ) のことを言う.同次式とは、非零項がすべて同じ次数であるような多項式のことである.例えば, x5+2x3y2+9xy4 は 2 変数の 5 次の同次多項式である.従って「2次式」と「2次形式」とは同じではない! ので注意する. ■

元の作用 S がガウス型であると仮定しよう.すると, 次の作用もガウス型である:

(1)S=S+f(t)x(t)dt

従って, 式 (7-67) 右辺の経路積分は § 3-5 の方法により実行できる.もし Scl が作用 S の極値 (extremum) であるならば, 因子 exp(iScl/) は式 (7-67) の経路積分の因子として取り出すことが出来る.残りの因子は経路 y(t) についての経路積分である.それは, 許された時間区間のゼロからゼロまでの積分である.[ x(t) は作用の極値に相当する古典的経路を x¯(t) として x(t)=x¯(t)+y(t) と表わせたのであった.]
経路 y(t) についての積分は関数 f(t) に依存しない.なぜなら, 作用 S 中では, この関数 f(x)x(t) の 1 次項のみを掛け合わせた形で現れるからである」.そして式 (3-49) で見たように, 経路積分に残るのは S の 2 次の項だけで, それはせいぜい S の 2 次の部分に過ぎないからである」.


【 メモ 】 式 (1) がガウス型であることは § 3-5 で述べたことから言える.量子力学で作用 S が経路 x(t) を 2 次まで含んでいる場合, 作用 S は経路積分中に eiS/ の形で含まれるので, すべての変数が指数部分に 2 次の多項式の形で現れる.その場合を「ガウス積分」と呼んだ.このとき, S もやはりガウス積分となることは明らかである:
S=L(x˙,x,t)dt,L=a(t)x˙2+b(t)x˙x+c(t)x2+d(t)x˙+e(t)x+g(t)S=S+f(t)x(t)dt=dt{a(t)x˙2+b(t)x˙x+c(t)x2+d(t)x˙+e(t)x+g(t)}+f(t)x(t)dt=dt[a(t)x˙2+b(t)x˙x+c(t)x2+d(t)x˙+{e(t)+f(t)}x+g(t)]
ここで xx=x¯+y として変数 y を用いて表現するならば, 作用の積分は y について2次の項だけが残り式 (3-49) のようになるからである:

S[x(t)]=Scl[b,a]+tatbdt[a(t)y˙2+b(t)y˙y+c(t)y2]

すると SS と同様にガウス型なので, 式 (3-50) より
abDx(t)e(i/)S=abDx(t)e(i/)[S+f(t)x(t)dt]=e(i/)Scl00Dy(t)exp{itatbdt[a(t)y˙2+b(t)y˙y+c(t)y2]}
      ■

このことから, 式 (7-67) の右辺の経路積分は指数関数に遷移要素 1 を掛けたものであることが分かる.上記の補足メモから,
exp[if(t)x(t)dt]=abDx(t)exp[i(S+f(t)x(t)dt)]=abDx(t)e(i/)S=e(i/)Scl00Dy(t)exp{itatbdt[a(t)y˙2+b(t)y˙y+c(t)y2]}=e(i/)Scle(i/)Scle(i/)Scl00Dy(t)exp{itatbdt[a(t)y˙2+b(t)y˙y+c(t)y2]}=e(i/)Scle(i/)Scl[e(i/)Scl00Dy(t)exp{itatbdt[a(t)y˙2+b(t)y˙y+c(t)y2]}]=e(i/)Scle(i/)SclabDx(t)e(i/)S=e(i/)(SclScl)1
よって, 結果は次となる:

exp[if(t)x(t)dt]=exp[i(SclScl)](7-68)=1exp[i(SclScl)]

いったん極値 Scl が計算できたならば, f(t) が恒等的にゼロであるとすることで, 極値 Scl は得ることが出来る.[ なぜなら, f(t)=0 の場合は Scl に相当しているからである ].
強制調和振動子の作用は式 (3-66) で記述されているが, それは作用 S の特別な一例になっていることが分かる.なぜなら, 外力が作用している調和振動子のラグランジアンは式 (3-65) で与えられた.調和振動子の場合の作用 (ガウス型の作用) を S0 とすれば, この場合の作用 S は式 (1) の形に表わせるからである:
L=m2x˙2(t)mω22x2(t)+f(t)x(t)S=dtL=dt[m2x˙2(t)mω22x2(t)+f(t)x(t)]
従って,
S=dt[m2x˙2(t)mω22x2(t)]+dtf(t)x(t)S0+f(t)x(t)dt

式 (7-68) で与えられる遷移要素を用いると,「 x(t) 自体の遷移要素」を別の方法で求めることが出来る.式 (7-68) の両辺を f(t) で汎関数微分するものとしよう.まず, 左辺を f(u) で汎関数微分しよう. F[f(t)]L=ix(t)f(t)dt とすると, 汎関数微分の定義式から,
δF[f(t)]Lδf(u)=limε0F[f(t)+εδ(tu)]LF[f(t)]Lε=limε01εi{x(t){f(t)+εδ(tu)}dtx(t)f(t)dt}(7-a)=ix(t)δ(tu)dt=ix(u)
すると汎関数微分のチェーンルールを用いて,
δeF[f(t)]Lδf(t)=dsδeF[f(t)]LδF[f(t)]LδF[f(t)]LδF[f(s)]LδF[f(s)]Lδf(t)=dseF[f(t)]δ(ts)ix(t)(7-b)=ix(t)exp[ix(t)f(t)dt]
次に右辺を f(u) で汎関数微分する.F[f(t)]R=i(Scl[f(t)]Scl) とすると, やはり汎関数微分のチェーンルールの式を利用して,
δeF[f(t)]Rδf(t)=dsδeF[f(t)]RδF[f(t)]RδF[f(t)]RδF[f(s)]RδF[f(s)]Rδf(t)=dseF[f(t)]Rδ(st)iδScl[f(s)]δf(t)(7-c)=iδScl[f(t)]δf(t)exp[i(SclScl)]
式 (7-b) と式 (7-c) を等しいとすれば, i/ で割った後に次式を得る:
(7-d)x(t)exp[ix(t)f(t)dt]=δSclδf(t)exp[i(SclScl)]

結果として, 次の遷移要素の式が得られる:
x(t)exp[if(t)x(t)dt]=δSclδf(t)exp[i(SclScl)](7-69)=δSclδf(t)exp[i(SclScl)]1

このとき, 式 (7-68) の所で述べたように,「 f(t) は恒等的にゼロである」とすると, 極値 Scl は極値 Scl と等しくなる.即ち Scl|f=0=Scl
従って, 式 (7-69) の両辺を「f(t)0 の場合」に評価すると, 両辺の指数関数部分は全て 1 となるので,
(7-70)x(t)=1δSclδf(t)|f=0

となる. [ この式は f(t)=0 のときに成り立つことに注意しよう.すなわち強制調和振動子の場合で言うと外力が加わっていない場合の式に成り立つのである.すなわち, これは「調和振動子の場合に言える式」であることを意味する! ].
この作業を続けることにより, 次のような 2 次の汎関数微分を得ることが出来る:
x(t)x(s)=(i)2δ2δf(t)δf(s)exp{i(SclScl)}|f=01(7-71)={δSclδf(t)δSclδf(s)+iδ2Sclδf(t)δf(s)}|f=01

この結果を問題 7-8 の関数 g(t,s) と比較すると, 式 (7-66) から次であることが分かる:
(7.71′)g(t,s)=iδ2Sclδf(t)δf(s)

実際, Sclf について 2 次式なので [式 (3-66) を見よ], 任意個数の x を因子とする遷移要素は δSclδf(t)δ2Sclδf(t)δf(s) を用いて直接的に評価することが出来る.「後者 δ2Sclδf(t)δf(s) の遷移要素は f に依存しない」と言える.このことから, 式 (7-64) と式 (7-65) の形が説明される.
(free particle):x(t)x(s)=[x¯(t)x¯(s)+is(Ts)mT]1(t<s)(forced oscillator):x(t)x(s)=[x¯(t)x¯(s)+isinωtsinω(Ts)mωsinωT]1(t<s)
また, 3 つの x の積の遷移要素を書き下すことも可能となる[問題7-10を試みよ].


【 メモ 】
【A】. 問題 7-7 から, 「作用 S が2次式である場合」には, 式 (7-70) は式 (7-57) に一致することに注意しよう!:

(2)x(t)=1δSclδf(t)|f=0=x¯(t)1δSclδf(t)|f=0=x¯(t)

例えば, 強制調和振動子のラグランジアン L は, 問題 3-11 中の式 (3-65) で定義されているが, そこでは変数 x が指数部分に 2 次の多項式の形で現れている.よって, その場合の作用 S は 2 次式の例になっている.そして, その経路積分はガウス積分となっている:
L=m2x˙2mω22x2+f(t)x(t),S=Ldt=dt{m2x˙2mω22x2+f(t)x(t)}K(b,a)=abDx(t)eiS[b,a]/=abDx(t)exp[idt{m2x˙2mω22x2+f(t)x(t)}]=mω2πisinωTexp(iScl)
また, このときの古典的作用 Scl は式 (3-66) に与えられている:
Scl=mω2sinωT[(xb2+xa2)cosωT2xbxa+2xbmωtatbdtf(t)sinω(tta)+2xamωtatbdtf(t)sinω(tbt)(3)2m2ω2tatbdttatdsf(t)f(s)sinω(tbt)sinω(sta)]
そこで, この作用 Sclf(t) で汎関数微分し, その後で f=0 として見ると,
δSclδf(t)=1sinωT[x2sinω(tt1)+x1sinω(t2t)1mωt1tdsf(s)sinω(t2t)sinω(st1)],(4)δSclδf(t)|f=0=1sinωT[x2sinω(tt1)+x1sinω(t2t)]=x¯(t)
この関数が「時刻 t=t1 で位置 x1 に, 時刻 t=t2 では位置 x2 に到る周波数 ω の調和振動子の軌道」すなわち「調和振動子」の古典的経路 x¯(t) になっていることを確かめることは容易である.「強制調和振動子の古典的経路ではない!」ので注意すべし.

【B】. 式 (7-71) の導出を行ってみよう.それには, 式 (7-d) の両辺を更に f(s) で汎関数微分すればよい:

(5)δδf(s)(x(t)exp[ix(t)f(t)dt])=δδf(s)(δSclδf(t)exp[i(SclScl)])

左辺の汎関数微分は式 (7-b) を利用する. F[f(t)]L=if(t)x(t)dt だったので,
δδf(s)(x(t)eF[f(t)]L)=x(t)δ eF[f(t)]Lδf(s)=x(t)ix(s)eF[f(t)]L=ix(t)x(s)eF[f(t)]L(6)=ix(t)x(s)exp[if(t)x(t)dt]
また, 右辺の汎関数微分には式(7-c)を利用する. F[f(t)]R=i(SclScl) だったので,
δδf(s)(δSclδf(t)eF[f(t)]R)=δ2Sclδf(s)δf(t)eF[f(t)]R+δSclδf(t)δeF[f(t)]Rδf(s)=δ2Sclδf(s)δf(t)eF[f(t)]R+δSclδf(t)iδScl[f(t)]δf(s)eF[f(t)]R(7)=i{iδ2Sclδf(s)δf(t)+δSclδf(t)δSclδf(s)}exp[i(SclScl)]
式 (6) と式 (7) を等しいとし, 両辺を i/ で割ると,
x(t)x(s)exp[if(t)x(t)dt](8)={iδ2Sclδf(s)δf(t)+δSclδf(t)δSclδf(s)}exp[i(SclScl)]
よって, この遷移要素は次となる:
x(t)x(s)exp[if(t)x(t)dt](9)={iδ2Sclδf(s)δf(t)+δSclδf(t)δSclδf(s)}exp[i(SclScl)]1
ここで, この遷移要素を「 f=0 の場合」で評価すると, やはり指数関数部分は全て 1 となるので, 目標の式 (7-71) が得られる:
(10)x(t)x(s)={iδ2Sclδf(s)δf(t)+δSclδf(t)δSclδf(s)}|f=01

この結果式 (10) と問題 7-8 中の式とを比較をするならば, 次が言えることに注意する:
x(t)x(s)=[x¯(t)x¯(s)+g(t,s)]1(11)g(t,s)=iδ2Sclδf(s)δf(t),x¯(t)x¯(s)=δSclδf(t)δSclδf(s)
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