8.9 強制調和振動子

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§ 8-9 強制調和振動子 では, 結果式の幾つかは「その代数計算が長ったらしい」.そこで, 分かる範囲ではあるが, それらの導出過程を少し詳しく補足しながら, 本文を和訳して示しておく.

8.9 強制調和振動子(THE FORCED HARMONIC OSCILLATOR)

この章では, 単純な振動子あるいは振動子の集まりに還元できる系を扱って来た.しかし振動子は自由で, 他のものとは相互作用しないものであった.このような線形系が, 他の系と相互作用をしたり, 外力によって駆動されている場合を扱おうとすると, 解析を更に進める必要がある.このような系の例としては, 変動する外場の中の多原子分子, 衝突する多原子分子, 結晶中で電子が動いて振動モードを励起する場合, 外場とモードとの相互作用, などがある.我々は, 相互作用の問題を一般的に議論することはしない.その代わり, 手本・典型(as a prototype) として, 例えば, 電磁場を介して原子系と電荷が相互作用する場合 を取り上げる.これを次の章で行う.他の場合は, 直接的な類似性によって解析できるであろう.
これらの問題は, 2つの側面を持っている.それは (1) 場を独立な振動子の成分に分解すること, (2) 各々の振動子と外場ポテンシャルや他の系との相互作用を記述すること, の2つである.振動子に分解することは, これまで徹底的にこの章で調べられたことである.
このような問題に対する完全な機構(複雑な一連の手続き)の準備は,「外場ポテンシャルによって撹乱される1個の振動子の振舞いを解析すること」が残っているだけである.これらの構成部分は, 次の章に於いて組み立てる(まとめる)ことにする.
この節では, 1個の調和振動子の場合の検討に逆戻りする.しかしそれは, ある外場ポテンシャルや撹乱と線形に結合している場合のものである.そのような系のラグランジアンは, 次で与えられる:

(8-136)L=M2x˙2Mω22x2+f(t)x

ここで f(t) は外力である.便宜上,「外力は t=0 から t=T までの間だけ働き, 初め(t=0) と終わり
(t=T)で, 振動子は自由である」とする.この問題は, 既に問題 3-11 で完全に解いている.そこでは, 振動子が t=0 で点 xa から出発し, t=Txb に到る振幅 K(b,a) が得られた.しかし, ここでの応用の場合には「初め外力が作用していない状態 n の調和振動子が, 時間 T の間だけ外力を受けた後に, 状態 m の調和振動子として見出される振幅 Gmn」を求める方が便利である.この表現は, 多くの場合で座標表示 xb;tb|xa;ta よりも便利である.[1]このとき, 振動子の状態は時間に依存するシュレディンガー方程式の解である.従って, エネルギー Em の固有状態を ϕm とするならば, 時刻 … Continue reading
§ 8-1 で, 自由な調和振動子の波動関数すなわちエネルギー固有関数 ϕn(x) を求めた.そして, 問題 3-11 では, 強制調和振動子の運動を記述する核 K(b,a) を求めた.そのことは, それらを直接, 次の式(遷移振幅の式) に代入することで, この振幅 Gmn が決定できることを意味している:
Gmn=ψ(xm,T)|1|ϕn=dxbdxaψm(xb,T)K(xb,T;xa,0)ϕn(xa)=dxbdxaϕm(xb)eiEmT/K(xb,T;xa,0)ϕn(xa)=eiEmT/dxbdxaϕm(xb)K(xb,T;xa,0)ϕn(xa)=eiEmT/dxbdxaϕm(xb)xaxbDx(t)eiS/ϕn(xa)=eiEmT/ϕm|1|ϕnSGmn=eiEmT/ϕm|1|ϕnS(8-137)=eiEmT/dxbdxaϕm(xb)K(xb,T;xa,0)ϕn(xa)

m=n=0 の場合, この積分はガウス型であり, 評価するには幾分長い過程となるが特に問題となることはない.結果は次のようになる:[2]この計算は, D.F.Styer のホームページに載っているので参照すると良い.
(8-138)G00=exp[12Mω0Tdt0tds f(t)f(s)eiω(ts)]


【 補助メモ 】 § 3-6 の式 (3-66) や § 8-1 の式 (8-17) などを用いると,

(1)ϕ0(xa)=(Mωπ)1/4exp(Mω2xa2),ϕ0(xb)=(Mωπ)1/4exp(Mω2xb2),K(b,a)=Mω2πisinωTeiScl/,E0=ω2 eiE0T/=eiωT/2whereScl=Mω2sinωT[(xb2+xa2)cosωT2xbxa+2xbMω0Tdtγ(t)sinωT(2)+2xaMω0Tdtγ(t)sinωT2M2ω20Tdt0tdsγ(t)γ(s)sinω(Tt)sinωs]

式 (8-137) の m=0,n=0 の場合は次である:
(3)G00=eiωT/2dxbdxaϕ0(xb)K(b,a)ϕ0(xa)

これに上式 (1), 式 (2)を 代入すると,
G00=eiωT/2(Mωπ)1/2dxbdxaexp(Mω2xb2)Mω2πisinωTeiScl/exp(Mω2xa2)=MωπeiωT2isinωTdxbdxaexp(Mω2xb2)exp(Mω2xa2)eiScl/
xaxb の積分区間が何れも [,] であるので, 被積分関数が奇関数であるとゼロになってしまう.従って, Scl 中の xa 及び xb について奇である項は消えるので,
G00=MωπeiωT2isinωTdxbdxaexp(Mω2xb2)exp(Mω2xa2)×exp[iMω2sinωT{(xa2+xb2)cosωT2M2ω20Tdt0tdsγ(t)γ(s)sinω(Tt)sinωs}]=Ia+Ib+MωπeiωT2isinωTdxbdxaexp[iMωsinωT0Tdt0tdsγ(t)γ(s)sinω(Tt)sinωs]
ただし IaIb は同形の積分であり, 巻末付録の公式 を用いて次となる:
Ii=MωπeiωT2isinωTdxiexp[(iMωcosωT2sinωTMω2)xi2]=MωπeiωT2isinωT2πtanωTMω(tanωTi)=Mωπ
このとき, 基底状態のエネルギーを E0=ω/2 としたが, 場合によってはこれをゼロとしても良いことに注意する.以下の計算は略する.


mn がゼロでない場合は, 積分はもっと複雑になる.しかしながら, 問題 8-1 で用いたのと同じ技巧を用いることが出来る.我々は, 強制調和振動子が状態 ψ から状態 χ になる振幅を求めることにしよう(we shall ask for).ただし, これら2つの状態 ψχ は, 問題 8-1 で定義されている f(x)g(x) とする.この振幅 F(b,a) は, 式 (8-23) の f(x)=nfnϕn(x)g(x)=mgmϕm(x), 及び, 式 (8-27) の Gmn=eiEmT/ϕm|1|ϕn, そして, 式 (8-28) を用いて次のように求まる:

F(b,a)=g|1|f=mngmfnϕm|1|ϕn=mngmfneiEmT/Gmn(8-139)=m=0n=0Gmnfm(b)fn(a)eiEmT/=m=0n=0Gmn(Mω2)m/2bmm!exp(Mωb24)(Mω2)n/2ann!exp(Mωa24)eiEmT/=exp{Mω4(a2+b2)}m=0n=0Gmnanbmm!n!(Mω2)(m+n)/2ei(m+1/2)ωT

もし F(b,a) を解くことが出来るならば(can work out), F(b,a)exp[(Mω/4)(a2+b2)] を掛け合わせ, その結果の式を ab についてベキ級数展開することにより Gmn を得ることが出来る:
exp{Mω4(a2+b2)}F(b,a)=m=0bmn=0anGmnm!n!(Mω2)(m+n)/2ei(m+1/2)ωT

すなわち(That is), まずは f(xa)g(xb) に式 (8-25), 式 (8-26) を用いて, 次の積分を求めたいのである:
F(b,a)=g|1|f=dx2dx1g(x2)K(x2,T;x1,0)f(x1)=dx2dx1(Mωπ)1/4exp{Mω2(x2b)2}K(x2,T;x1,0)×(Mωπ)1/4exp{Mω2(x1a)2}(8-140)=Mωπdx2dx1e(Mω/2)(x2b)2K(x2,T;x1,0)e(Mω/2)(x1a)2

ただし K(x2,T;x1,0) は, 式 (3-66) の強制調和振動子に対する核である.この被積分関数の指数部分には変数が2次形式でのみ現れているから, 積分は容易に実行できる.結果についての「代数計算の幾つかは長ったらしいものである」.しかしながら, 結局は次の式が得られる:
F(b,a)=exp{iω2T}exp{Mω4(a2+b22abeiωT)+iMω2(aβ+bβeiωT)(8-141)12Mω0Tdt0tdsγ(t)γ(s)eiω(ts)}
ただし,
(8-142)β=12Mω0Tdtf(t)eiωt(8-143)β=12Mω0Tdtf(t)eiωt
G00 の値は, 式 (8-141) で a=b=0 とおくことにより, 容易に得られる.結果は, 式 (8-138) と同じである.次に, 前述のように指数関数 exp[(Mω/4)(a2+b2)] を掛け合わせた後,
x=Mω2a,y=Mω2beiωT

とおくと,
exp{Mω4(a2+b2)}F(b,a)=m=0bmn=0anGmnm!n!(Mω2)(m+n)/2ei(m+1/2)ωT=eiωT/2m=0n=0an(Mω2)nbm(Mω2)meimωTGmnm!n!=eiωT/2m=0n=0xnymGmnm!n!=exp{Mω4(a2+b2)}exp{iω2T}exp{Mω4(a2+b22abeiωT)+iMω2(aβ+bβeiωT)}×exp{12Mω0Tdt0tdsγ(t)γ(s)eiω(ts)}=exp{iω2T}exp{Mω4(2abeiωT)+iMω2(aβ+bβeiωT)}×G00
従って,
eiωT/2m=0n=0xnymGmnm!n!=exp{iω2T}exp{Mω4(2abeiωT)+iMω2(aβ+bβeiωT)}G00=eiωT/2G00exp{Mω2abeiωT+iMω2aβ+iMω2beiωTβ}=eiωT/2G00exp{xy+ixβ+iyβ}
すなわち,
m=0n=0Gmnxnymn!m!=G00exp{xy+iβx+iβy}

右辺の指数関数を xy のベキ級数で展開する.指数関数をマクローリン級数展開すると,
(a)exp(xy+iβx+iβy)=n=01n!(xy+iβx+iβy)n

この式中の因子の多項式を展開する.多項定理から (a+b+c)n の展開式の一般項は,
n!p!q!r!apbqcr,wherep+q+r=n, p0,q0,r0

これを上式 (a) に適用すると,
1n!(xy+iβx+iβy)n=1n!n!p!q!r!(xy)r(iβx)q(iβy)p=1p!q!r!xr+qyr+p(iβ)q(iβ)p

ここで r+q=n, r+p=m とおくと q=nr, p=mr であるから,
1n!(xy+iβx+iβy)n=1(nr)!(mr)!r!xnym(iβ)nr(iβ)mr

これは, 指数関数を xy のベキ級数で展開したときの一般項と見做せるであろう.よって,
exp(xy+iβx+iβy)=n=0m=0r=0l1(nr)!(mr)!r!xnym(iβ)nr(iβ)mr

ただし rnr0,mr0 を満たすものである.従って, lnm のうちの小さい方とする.
この結果を式 (8-144) に代入すると,
m=0n=0Gmnxnymn!m!=G00exp{xy+iβx+iβy}=G00n=0m=0r=0l1(nr)!(mr)!r!xnym(iβ)nr(iβ)mr,Gmnn!m!=G00r=0l1(nr)!(mr)!r!xnym(iβ)nr(iβ)mr,Gmn=G00r=0lm!n!(nr)!(mr)!r!xnym(iβ)nr(iβ)mr
よって, 次の最終結果が得られる:
(8-145)Gmn=G00m!n!r=0lm!(mr)!r!n!(nr)!r!r!(iβ)nr(iβ)mr

ただし lm 及び n の小さい方とする.
これで強制調和振動子の問題は完全に解けた.次の章では, これを更に議論し, そして利用することにする.

References

References
1 このとき, 振動子の状態は時間に依存するシュレディンガー方程式の解である.従って, エネルギー Em の固有状態を ϕm とするならば, 時刻 T での系の波動関数は ψ(x,T)=ϕm(x)eiEmT/ であった. すなわち Gmn では, 終状態にはこの ψ を使わなければならないことに注意する!
2 この計算は, D.F.Styer のホームページに載っているので参照すると良い.