電磁場のエネルギーと運動量

LandauとLifshitzの肖像

問題 9-5 では, 電磁場の運動量が次式で与えられていた: Prad=14πc(E×B)d3r
電磁場のエネルギー及び運動量の密度とその流れについて, ランダウ:「力学・場の理論」の § 57 及び § 58 の文章に式の導出などを付加してまとめておく.

エネルギーの密度の流れ

マックスウェル方程式の第1の組および第2の組は次である:

(1)rotE=1cHt,divH=0(2)rotH=1cEt+4πcj,divE=4πρ

式 (2) の第1式の両辺に E を, そして式 (1) の第1式の両辺に H を掛け合わせ, 得られた方程式の引き算を行うと,
(3)ErotHHrotE=1cEEt+4πcEj+1cHHt

よく知られたベクトル解析の公式
(4)div(a×b)=brotaarotb

に於いて aH, bE と置くと次式が得られる:
(5)div(H×E)=ErotHHrotE

この式 (5) の右辺は式 (3) の左辺になっているから, 両式を合わせて次が言える:
(6)div(H×E)=1cEEt+1cHHt+4πcEj

さらに,
(7)tE2=tEE=EtE+EEt=2EEt,tH2=2HHt

この結果を用いると式 (6) は,
div(H×E)=12ctE2+12ctH2+4πcjE(8)div(E×H)=12ct(E2+H2)+4πcjE

これは次のような形に書き直せる:
(9)t(E2+H28π)=jEc4πdiv(E×H)

ここで,「ポインティング・ベクトル」と呼ばれる量 S を導入する:
(10)Sc4πE×H

すると式 (9) は次のように書くことが出来る:
(11)t(E2+H28π)=jEdivS

式 (11) を或る体積 V について積分し, 右辺の第 2 項に「ガウスの定理
(12)VdivAdV=SAdf

を適用する.すると,
tVE2+H28π=VjEdVVdivSdV(13)=VjEdVSSdf

もし積分が全空間に及ぶならば, 場は無限遠でゼロなので面積積分は消える.更に, 第 1 項の積分は全ての電荷についての和として表わすことが出来る:
(14)jEdV=evE

これに,「場が単位時間の間に粒子に対してする仕事」についての式
(15)dEkindt=eEv

を代入すると,
tE2+H28π=VjEdV=evE=ddtEkin=ddtEkin,(16)ddt{E2+H28πdV+Ekin}=0

従って, 電磁場とその中に存在する粒子とから成る閉じた系に対して, この方程式のカッコの中の量は保存される.この表式の第 2 項は,「全ての粒子の(静止エネルギーを含めた)運動エネルギー」である.従って, 第 1 項は「場自体のエネルギー」である.それ故, 我々は次の量 W を「電磁場のエネルギー密度」と呼ぶことが出来る:
(17)W=E2+H28π

これは,「単位体積あたりの場のエネルギー」である.

もし有限な体積について積分するならば, 式 (13) の面積分は一般には消えないから, その方程式を次のような形に書くことが出来る:

(18)t{E2+H28πdV+Ekin}=SSdf

ここで, カッコの中の第 2 項は, 今度は考えている体積内に在る粒子についてのみ和を取ったものである.左辺は「場と粒子との全エネルギーの単位時間当たりの変化」である.従って, 積分 Sdf は「与えられた体積を囲む曲面を横切る場のエネルギーの流れ」と解釈される.それ故, ポインティング・ベクトル S は, この「流れの密度」(表面の単位面積を単位時間に通過する場のエネルギーの大きさ) なのである.
式 (17) の W を用いると, 式 (11) は次のようになる:
(11′)tW+jE+divS=0

これは「エネルギー保存則」を述べた微分形の式である.

運動量の密度の流れ

電磁場は, 空間にある定まった密度で分布する運動量も持っている.場の強さでこの運動量の密度を表わすことは, 前節で使ったのと同様な方法で行われる.次の積分を考える:

(19)14πc(E×H)dV

この積分の時間微分を計算しよう.積分記号の下で微分を行い, 微分 Et 及び Ht をマクスウェル方程式(1), (2)で書き直すならば,
(20)1cEt=rotH4πcj,1cHt=rotE

であるから, 以下の関係が得られる:
tE×H4πcdV=14πc(E×Ht)dV+14πc(Et×H)dV(21)=14π(E×rotE+H×rotH)dV1c(j×H)dV

上式の積分部分に対して次のベクトル解析の公式を用いる:
(22)(ab)=a×rotb+b×rota+(a)b+(b×)a

すなわち aE,bE とするならば,
(23)E2=2E×rotE+2(E)E,E×rotE=12E2(E)E

更に上式右辺第 2 項は, 次のように書くことが出来ることに注意する:
(24)(E)E=E(E)+(E)E,(E)E=(E)EE(E)

これは,「(E)E に於ける演算子 は, その後の二つの因子の両方に作用する」と考えるからである.すると式 (23) は,
(25)E×rotE=12E2(E)E+E(E)

最後に, マックスウェル方程式の式 (2) より,
(26)EdivE=4πρ

従って, 式 (25) は次となる:
(27)E×rotE=12E2(E)E+4πρE

磁場 H についても同様に変形することが出来るが divH=0 だけが異なる.よって,
(28)H×rotH=12H2(H)H

以上の結果式 (25), (28) を式 (21) に代入する.すると,
tE×H4πcdV=14π(E×rotE+H×rotH)dV1c(j×H)dV=14π{12E2(E)E+4πρE+12H2(H)H}dV1c(j×H)dV(29)=14π{12(E2+H2)(E)E(H)H}dV{ρE+1cj×H}dV

ここで, ガウスの発散定理に相当する積分公式である「テンソル場 T の発散定理」を利用する: [1]安達忠次:「ベクトル解析」の § 87 を参照のこと.
(30)VdivTdV=STndf
テンソル T として, 単に2つのベクトル U,V を掛け合わせたものを考えることも出来る:
(31)T=UV,or,Tij=UiVj

このようなテンソルは「ダイアディック」と呼ばれる.そこで Tij=EiEj 即ち U=V=E の場合を考える.そして式 (24) の所で注意したように,「式 (29) の第 1 項の積分記号の中の演算子 は, その後に在る因子の全てに作用する」ことを踏まえるならば, 式 (30) は次に書ける:
VdivTdV=VEEdV=(E)EdV=SEEndf=SE(En)df(32)(E)EdV=SE(En)df=E(Edf)

同様にして, Tij=HiHj 即ち U=V=H の場合には次が得られる:
(32′)(H)HdV=SH(Hn)df=H(Hdf)

また, 式 (30) のテンソル Tij として Tij=12δij(E2+H2) を考えると,
VdivTdV=VTdV=Vjj12δij(E2+H2)dV=V12i(E2+H2)dV,STndf=SjTijdfj=Sj12δij(E2+H2)dfj=S12(E2+H2)dfi,V12i(E2+H2)dV=S12(E2+H2)dfi(33)V12(E2+H2)dV=S12(E2+H2)df

以上の式 (32), 式 (32′), 式 (33) より, 式 (29) は次のように書くことが出来る:
tE×H4πcdV=14π{12(E2+H2)dfE(Edf)H(Hdf)}(34)V{ρE+1cj×H}dV

更に, 第 2 項目の積分には電荷密度と電流が現れているが, それを与えられた体積中に分布している点電荷についての和の形に書き直そう:
(35)ρ=jeδ(rrj),j=jevδ(rrj)V{ρE+1cj×H}dV=V{jeδ(rrj)E+1cjevδ(rrj)×H}dV=jeEδ(rrj)dV+j1cev×Hδ(rrj)dV=jeE+j1cev×H=je(E+1cv×H)

すると式 (29) は最終的に次のような「運動量保存則のベクトル方程式」となる:
tE×H4πcdV=14π{12(E2+H2)dfE(Edf)H(Hdf)}(36)e(E+1cv×H)

この式 (36) に於いて, 最初は積分が全空間について行われると仮定する.すると, (無限遠に於ける) 表面積分はゼロになる.式 (36) の和の中の表式は, 電荷に働くローレンツ力である.電磁場の中の電荷の運動方程式は次であった:
(37)dpdt=eE+ecv×H

従って, 式 (36) は次のように書くことが出来る:
(38)tE×H4πcdV=dpdt,t{E×H4πcdV+p}=0

明らかにこの式は,『「粒子+場」という系の全運動量の保存則』に他ならない.従って, カッコの中の第 1 項は「電磁場の運動量」であり, 積分記号の中の表式は「運動量密度」と見做すことが出来る; それを P(em)で表わそう:
(39)P(em)=E×H4πc=Sc2

運動量密度が (1/c2 という定数因子を除いて) ポインティング・ベクトル S すなわち「場のエネルギー流の密度」と一致することに注意しよう.

次に, 式 (36) の左辺の積分が場のある有限な体積についての積分とする.すると, 面積分はゼロにはならない.次の「3次元テンソル σik」を導入して, それをもっと簡単な形に書こう:

(40)σik=14π{E2+H22δikEiEkHiHk}

この個々の成分は, 例えば次となる:
σxx=18π(Ey2+Ez2Ex2+Hy2+Hz2Hx2),σxy=14π(ExEy+HxHy),etc.

式 (36) の面積分の被積分項はベクトルである;式 (40) のテンソルを使い, 式 (32), 式 (32′), そして式 (33) を参照すると, その i 番目の成分は σikdfk と書ける:
σikdfk=14π{E2+H22δikEiEkHiHk}dfk=S14π{12(E2+H2)dfiSEiEkdfkSHiHkdfk}=S14π{12(E2+H2)dfiSEi(Edf)SHi(Hdf)}

従って, 運動量の保存則のベクトル方程式である式 (36) を, 個々の成分で表わすと次のような形になる:
t[E×H]i4πcdV=σikdSkdpidt,(41)t{Pi(em)dV+pi}=σikdfk

これから明らかなように, この式の右辺の積分は, 今考えている体積から流出する場の運動の流れを表わす.積 σikdfk は「面要素 df をよぎる運動の流れ」である.単位法線ベクトルを N とすると, df=Ndf である.従って,
(42)σikdfk=σikNkdf

であり, 成分 σikNk を持つベクトルは, N 方向の運動量の流れの密度, 即ち N に垂直な単位面積の面をよぎる運動量の流れであることが分かる.式 (40) の σik を代入すると, このベクトルは次に等しいことが見出される:
(43)14π{E2+H22NE(NE)H(NH)}

何故なら,
σikNkdf=14π{E2+H22δikEiEkHiHk}Nkdf=14π{E2+H22δikNkEiEkNkHiHkNk}df=14π{E2+H22NiEi(EN)Hi(HN)}df

テンソル σik は「マクスウェルの応力テンソル」と呼ばれる.上に述べたことから,「σik の成分は運動量の i 成分の xk 軸方向への流れである」.式 (40) から分かるように,「応力テンソルは対称的である」ことに注意しておこう.

(44)σik=14π{E2+H22δikEiEkHiHk}=σki

電磁場の運動量密度(輻射の運動量) P(em)=S/c2 とマクスウェルの応力テンソル σij を用いると, 式 (29) は次のように書くことが出来る: [2]オッペンハイマー:「電気力学」によれば, 以下のようになる.式 (29) を書き直すと, \begin{equation} \int \left[\pdiff{t}\frac{\mb{E}\times\mb{H}}{4\pi … Continue reading
(45)tP(em)+ρE+1cj×H+divσ=0

これは「運動量保存の法則」を述べた微分形の式である.

References

References
1 安達忠次:「ベクトル解析」の § 87 を参照のこと.
2 オッペンハイマー:「電気力学」によれば, 以下のようになる.式 (29) を書き直すと,
(a)[tE×H4πc+ρE+1cj×H+14π{12(E2+H2)(E)E(H)H}]dV=0

これが恒等的に成り立つには被積分関数がゼロであればよい.従って,
(b)tE×H4πc+ρE+1cj×H=14π{(E)E+(H)H12(E2+H2)}

この式を成分に分けて書いてみる.jj12δij(E2+H2)=12i(E2+H2)に注意すると,
t{14πc[E×H]i}+ρEi+1c[j×H]i=14π{(jjEj)Ei+(jjHj)12i(E2+H2)}(c)=14πjj{EiEj+HiHj12δij(E2+H2)}

ここで「輻射の運動量」G と「マクスウェルの応力テンソル」Tij を導入する:
(d)G=Sc214πcE×H,(e)[T]ij=Tij14π{EiEj+HiHj12δij(E2+H2)}[divT]i=[T]i=jjTji=jjTij=14πjj{EiEj+HiHj12δij(E2+H2)}

すると式(c)は次のように書くことが出来る:
(f)tG+ρE+1cj×H+divT=0
これは, 『運動量 G に関する「運動量保存の法則」を表現している』と解釈することが出来る.このとき, 真空中の電磁波に対しては ρ=0,j=0, そして H=n×E であるから, 次式が成り立つことに注意する:
G=14πcE×H=14πcE×(n×E)=14πcE2n=14πcH2nG=14πc12(E2+H2)n=1cE2+H28πn=Wcn,(g)|G|=μc,whereμ=Wc2

この関係は質量μ とエネルギー W との同等性についての最初の手がかりとなるものである.更に, 自由空間に於いては EH に垂直であって, その上 |E|=|H| であるから
(h)G=Wcn,S=c2G=cWn

となる.マクスウェルの応力テンソル T の対角成分 Tii は,「輻射が及ぼす力」を表わす.空洞内の輻射に対しては, 平均をとって,
(i)Ex2=Ey2=Ez2=13E2=Hx2=Hy2=Hz2=13H2,EiEj=0,HiHj=0(ij),Tij=0

が得られ, 更に上式 (i) から,
Tii=14π{12(E2+H2)Ei2Hi2}(j)=14π{12E2+12H213E213H2}=14π{16E2+16H2}=112πE2S=c4πE×H=0,G=1c2S=0,(k)W=18π(E2+H2)=18π×2E2=14πE2,(l)Tii=pressure=13W

即ち, 「空洞内の輻射の圧力 p と輻射のエネルギー密度 W の間には p=W3 の関係がある」ことが分かる.