式 (6-50) と電子散乱の形状因子について

Feynman-Hibbs-cover

原子は電荷密度によって表現することが出来る.核の位置で電荷は特異的になり, 強さ Ze を持つ rδ-関数として表わされる.ここで Z は核の原子番号である.原子内の全電子密度を ρe(r) とすれば, 原子内の電子の電荷密度は ρ(r)electron=eρe(r) と表わされ, また核は Ze の電荷を持っているから核の位置での電荷密度は ρ(r)necleus=Zeδ(r) と表わせるであろう.(原子全体は電気的に中性なので原子内の電子数も Z 個である).すると原子全体の電荷密度 ρ(r) は次のように表わせる:

ρ(r)=ρ(r)necleus+ρ(r)electron=Zeδ(r)eρe(r)

このとき式 (6-49) の v(q) は次となる:
v(q)=4π2eq2ρ(r)eiqr/d3r=4π2eq2{Zeδ(r)eρe(r)}eiqr/d3r=4π2eq2[Zeδ(r)eiqr/d3reρe(r)eiqr/d3r](6-50)=4π2e2q2[Zρe(r)eiqr/d3r]

ただし原子核が点と見做せず, ある核構造を有する場合には 「核の電荷分布関数」を ρn(r) とすれば, 核電荷密度は
(1)ρ(r)necleus=Zeδ(r)+Zeρn(r)

となるであろう.よって,「核構造を有すると考える場合」の v(q) は次とするべきであろう:
v(q)=4π2eq2ρ(r)eiqr/d3r=4π2eq2{Zeδ(r)+Zeρn(r)eρe(r)}eiqr/d3r=4π2eq2[Zeδ(r)eiqr/d3r+Zeρn(r)eiqr/d3reρe(r)eiqr/d3r](2)=4π2Ze2q2[1+ρn(r)eiqr/d3r1Zρe(r)eiqr/d3r]

ただし, 核の電荷分布関数 ρn(r) の「規格化」は次である:
(3)ρn(r)d3r=4π0ρ(r)r2dr=1

式(2) の v(q) を次のように表わそう:
v(q)=4π2Ze2q2[1+ρn(r)eiqr/d3r1Zρe(r)eiqr/d3r](6-50′)4π2Ze2q2F(q)

この F(q) は「電子散乱の形状因子 ( form factor )」と呼ばれる.( 因みに X 線散乱でも似たような形状因子が現れる.X 線散乱の理論によると, 散乱に寄与するのは原子内電子だけであり, 原子核は寄与しない.従って X 線散乱の形状因子は, 式(6-50)の Z が省略されるだけで, あとは同じである).


(参考) 問題 6-6 の Rutherford 散乱の断面積の場合には, クーロンポテンシャル V(r)=Ze2/r を考えた.これは核構造と電子による遮蔽効果を無視した場合に相当していることに注意すべし!.よって, 上式 (6-50) で「原子内電子の電荷密度 ρe(r)=0 とする」ことに相当する.従って, 関係式 q=2psin(θ/2) を用いると

(4)v(q)=4π2e2q2[Zρe(r)eiqr/d3r]=4π2e2q2Z=π2Ze2p2sin2θ/2

このとき微分散乱断面積は,
(5)dσ(θ)dΩ=(m2π2)2|v(q)|2=(m2π2)2|π2Ze2p2sin2(θ/2)|2

従って, 古典的なエネルギーと運動量との関係 E=p2/2m を用いると, ラザフォード散乱の微分散乱断面積 に一致する:
(6)(dσ(θ)dΩ)Ruth=(m2π2)2|π2Ze2p2sin2(θ/2)|2=Z2e416E2sin4θ2