問題 8-3 の解答例

Feynman-Hibbs cover

Problem 8-3
Show that Qαc, Qαs are normanl coordinates, representing, however, standing waves cos(2παj/N) and sin(2παj/N), respectively, i.e.,

(8-82)qj=2N[12Q0c+α=112(N1)Qαccos(2πNαj)+α=112(N1)Qαssin(2πNαj)]

for N odd.

( 注意 ) この式 (8-82) の表現は, 原書や校訂版から自己流に修正してあるので注意するべし.


( 解答 )  まず QαC 及び QαS が基準座標であることを示しておく.系のラグランジアンは, 基準座標 Qα を用いて式 (8-78′) のように表わすことが出来た:

(1)L=12α=12(N1)12(N1)(Q˙αQ˙αωα2QαQα)=α=012(N1)(Q˙αQ˙αωα2QαQα)

このとき Qα は, 式 (8-79) より QαCQαS を用いて表せた:
Qα=12(QαCiQαS),QαQα=12[(QαC)2+(QαS)2],(2)Q˙α=12(Q˙αCiQ˙αS),Q˙αQ˙α=12[(Q˙αC)2+(Q˙αS)2]

これを式 (1) に代入すると, 運動エネルギーは式 (8-81) となり, 位置エネルギーも同様に表わせて,
L=α=012(N1){12[(Q˙αC)2+(Q˙αS)2]ωα212[(QαC)2+(QαS)2]}(3)=α=012(N1)12{(Q˙αC)2ωα2(QαC)2}+α=012(N1)12{(Q˙αS)2ωα2(QαS)2}

この形のラグランジアンは, 式 (8-57) と同様に「相互作用しない独立な調和振動子の集まりを表わしている」.よって QαCQαS は一緒になって N 個の基準座標になっていると言える.

変位 qj を求めるには, 基準座標 Qα を表わす式 (8-77) の両辺に exp(i2πNαk) を掛け合わせてから, α について 0 から N1 まで足し合わせばよい:

α=0N1exp(i2πNαk)Qα=α=0N1exp(i2πNαk)1Nj=0N1qjexp(i2πNαj)(4)=1Nj=0N1qjα=0N1exp(i2πNαk)exp(i2πNαj)

その際に, 1 の累乗根の直交性から言える次の関係を利用する (この証明は前のブログ記事を参照するべし):
(5)1Nα=0N1exp(i2πNαk)exp(i2πNαj)=δkj

すると式 (4) は次のように展開される:
(6)α=0N1exp(i2πNαk)Qα=1Nj=0N1qjNδkj=Nqk

従って,
(7)Nqk=α=0N1exp(i2πNαk)Qαqk=1Nα=0N1Qαexp(i2πNαk)

よって, この場合の式 (8-52) に相当するのは, ajαajα で置き換えた式となるので注意が必要である:
(8)qj=α=1NajαQα(t)
また, 式 (8-42) に類似して, 変位 qj は次のように表わすことが出来る:
(9)qj=α=1Ncαajαeiωαt=α=0NcαAeiKαjeiωαt=1Nα=0Ncαei(Kαjωαt)
この qj(t) は, 明らかに「進行波」である.

さらに N が奇数の場合を考慮して, 式 (7) の α の範囲は (N1)/2 から (N1)/2 までに修正しておく:

(10)qj=1Nα=12(N1)12(N1)QαeiKj,whereK2πNα

上式の Qα に式 (8-77) の右辺を用いる.さらに式 (8-79) から次が言える:
(11)Qα(t)=12{QαC(t)iQαS(t)},QαC(t)=QαC(t),QαS(t)=QαS(t)

これらの式を利用して α が負の部分を正のもので表わすことにすると,
qj=1Nα=12(N1)12(N1)QαeiKj=1Nα=12(N1)12(N1)12(QαCiQαS)eiKj=1Nα<012(QαCiQαS)eiKj+1NQ0+1Nα>012(QαCiQαS)eiKj=1Nα>012(QαCiQαS)eiKj+1Nα>012(QαCiQαS)eiKj+Q0N=12Nα>0(QαC+iQαS)eiKj+12Nα>0(QαCiQαS)eiKj+Q0N(12)=12Nα>0QαC(eiKj+eiKj)i12Nα>0QαS(eiKjeiKj)+Q0N

ここで eiθ+eiθ=2cosθ, eiθeiθ=2isinθ を利用すると,
qj=12Nα>0QαC2cos(Kj)i12Nα>0QαS2isin(Kj)+Q0N(13)=2N[α=112(N1)QαCcos(Kj)+α=112(N1)QαSsin(Kj)]+Q0(t)N

さらに Q0=12Q0C であるから, 最終的に次の結果となる:
qj=2N[12Q0C+α=112(N1)QαCcos(Kj)+α=112(N1)QαSsin(Kj)],K=2πNα(14)=2N[12Q0C+α=112(N1)QαCcos(2πNαj)+α=112(N1)QαSsin(2πNαj)]

因みに, この問題文の式 (8.82) は, 区間 [l,l] で定義された関数 S(x) の「有限なフーリエ級数による近似式」に相当していると思われる:
(15)S(x)=a02+n=1k(ancosnπxl+bnsinnπxl)

このときの QαCQαS が「定在波」であることを, やはり テル・ハール を参考にして示しておく:
式 (8.42′) で, ある一つの α だけがゼロでないとする.それを β とすると, そのときの qjQβ である.これを式中で表現するには cα=δαβ と置けばよいから,

(16)qj(t)=1Nαδαβexp[i(Kαjωαt)]=1NeiKβjωβt=Qβ

式 (8-73) から ωα=ωα である.また, Kα=2π(α)/N=Kα に注意する.すると上式(15)から, QαQα は次のように書ける:
(17)Qα=1Nexp{i(Kαjωαt)},Qα=1Nexp{i(Kαjωαt)}

式 (8-80) を用いて, このときの Qα CQα S を書いてみると,
Qα C=12(Qα+Qα)=12N[exp{i(Kαjωαt)}+exp{i(Kαjωαt)}]=12Neiωαt(eiKαj+eiKαj)=12Neiωαt2cos(Kαj)=2Neiωαtcos(Kαj),Qα S=i2(QαQα)=i2N[exp{i(Kαjωαt)}exp{i(Kαjωαt)}]=i2Neiωαt(eiKαjeiKαj)=i2Neiωαt2isin(Kαj)(18)=2Neiωαtsin(Kαj)

このとき, Qα CQα S の形は, 時間 t 依存性と位置 j 依存性とが分離されており, これらの表わす波動が「定常波」であることは明らかである.

因みに, 式 (8-77) の Qα と式 (7) の qj とは,「ディジタル信号処理」(DSP) の「離散フーリエ変換」(DFT) の式と全く同じ形をしている:

Qα=1Nj=0N1qjexp(i2πNαj),qj=1Nα=0N1Qαexp(i2πNαj)

従って, 基準座標への変換はフーリエ変換と見做すことも出来るかも知れない.

参考のために, L.R.Rabiner:「音声のディジタル信号処理」の § 2.2.3 (p.18 ) から,「離散フーリエ変換」に関係する部分を以下に抜粋しておく.

無限長の信号数列 x(n) が, 長さ N の周期数列 x~(n) を用いて, 次式で定義されるとする:
x~(n)=r=x(n+rN)=x(n modulo N)=x((n))N
このとき x(n) のフーリエ級数表示は周期数列 x~(n) のフーリエ係数となる.そこで, 有限長 N の数列 x(n) は, 次のような「離散フーリエ変換」(discrete Fourier transform, DFT)として厳密に表現される:

{ X(k)=n=0N1x(n)ej2πNkn,(k=0,1,,N1)x(n)=1Nk=0N1X(k)ej2πNkn,(n=0,1,,N1)