1の累乗根


問題 8-3 へ回答するための準備として,「1の累乗根」についてまとめておこう.自分で説明文を書く自信がないので, 次のウェブサイト記事の一部を訳すことで(多少の補足を加えて), まとめに代えることにする:

https://people.math.carleton.ca/~ckfong/C2.pdf


1の累乗根

正の整数 n が与えられたとき, 複素数 zzn1 を満たすならば, この z1n 乗根 ( nth root of unity ) と呼ぶ.言い換えれば, z は多項式 Xn1 の根である.複素数 ei2π/nωn で, または n が分かっているならば単に ω で表わす:

(1)ωωn=ei2π/ncos2πn+isin2πn

このとき ωn=(ei2π/n)n=ei2π=1 なので, ω1n乗根であることが分かる.次の複素数
(2)1,ω,ω2, ,ωn1,

を複素平面上の点と見なすと, これらは単位円に内接する正 n 角形の頂点となる.例えば, n=3, n=4, n=5 の場合は, 図 1 のような頂点となる.

fig-kreyszig

図 1. E. Kreyszig : Advanced Engineering Mathematics に依る.

1,ω,ω2,,ωn1 のこの特殊な幾何学的配置のために, それらの合計がゼロになると考えるのは難しいことではない:
(3)1+ω+ω2++ωn1=0.
この非常に重要な恒等式を代数的に証明して見よう.ωn=1 から, 次となる:

(4)(1ω)(1+ω+ω2++ωn1)=1ωn=0.

明らかに ω1, つまり 1ω0 である.従って式 (3) が言える.

ω,ω2,,ωn1 の各々は 1n乗根である.実際, 0kn1 として z=ωk とすると,

(5)zn=(ωk)n=(ωn)k=1k=1.

従って, 1,ω,ω2,,ωn1Xn1 のちょうど n 個の異なる根である.各根 ωkXn1 の1次因子 Xωk に寄与する.従って, Xn1 の因数分解は次のようになる:
(6)Xn1=(X1)(Xω)(Xω2)(Xωn1)=k=0n1(Xωk).

この最後の表現は, Xωk (k0 から n1 まで) の積と読むことが出来る.

恒等式 (3) からは, 各根 ωk=ei2πk/n の直交性が言える.式 (5) から, ωk についても式 (4) と同様な式が成り立つは明らかだ:

(7)(1ωkn)=(1ωk)(1+ωk+ω2k++ωk(n1))=0

明らかに ωk0, つまり 1ωk0 であるから,
(8)1+ωk+ω2k++ωk(n1)=0,k0

従って, k0 の場合, 次が言える:
(9)m=0n1ωkm=m=0n1exp(i2πnkm)=0

k=0 の場合は明らかに次が言える:
(10)m=0n1ωkm=m=0n11=1+1++1=1×n=n

以上のことを次のように言い換える.a,b をゼロでない整数として k=ab とおく.すると,

(11)m=0n1ωkm=m=0n1ω(ab)m=m=0n1exp{i2πn(ab)m}

従って, 式 (9) と式 (10) とはまとめて次のように書くことが出来る:
(12)m=0n1exp{i2πn(ab)m}=m=0n1exp(i2πnam)exp(i2πnbm)={0abna=b
これは関数 ωk=ei2πk/n の直交性を表している.または, 上式を n で割り算すれば, 次のような「規格直交性」を表した式となる:
(13)1nm=0n1exp{i2πn(ab)m}=m=0n11nexp(i2πnam)1nexp(i2πnbm)=δab