Feynman QED Ninth Lecture

Ninth Lecture

単位(UNITS)

これ以降では, 次の慣習を用いる [1][訳註] ただしこの訳では c, をきちんと表示した式を記述して行く..質量と時間そして長さの単位は, 次となるように定義する:

c=1(c=2.99793×1010 cm/sec)=1(=1.0544×1027 erg/sec)

表 9-1 は, よく用いる単位に対する慣習の便利な参考資料である.

表 9-1 表記と単位
ここでの表記
意味
慣習的表記
m 電子の質量 m
エネルギー mc2 510.99 keV
運動量 mc
振動数 mc2/
波数 mc/
1/m 長さ(コンプトン波長/2π) /mc 3.8615×1011cm
時間 /mc2
e2 微細構造定数(無次元) e2/c 1/137.038
e2/m 電子の古典半径 e2/mc2 2.8176×1011cm
1/me2 ボーア半径 a0=2/me2 0.52945

 

以下の数値は有用である:

  • Mp=mass of proton=1836.1m=938.2MeV
  • Mass unit of atomic weights =931.2 MeV
  • MH= Mass of hydrogen atom =1.00815 mass units
  • MN= Mass of neutron 784 keV +MH
  • kT =1 eV when T=11,606 K
  • Na= Avogadro’s number =6.02×1023
  • Nae=96,520 coulombs

KLEIN-GORDON方程式, PAULI方程式, DIRAC方程式

相対論的力学では, ハミルトニアンは次式で与えられる:

(9-1)(Heϕ)2c2=m2c2+(pecA)2,H=m2c4+c2(pecA)2+eϕ

もし p に対して量子力学的演算子 i を用いると, 2乗根によって決定される演算子は定義することが出来ない.従って, 古典力学的な式(9-1)から相対論的な量子力学のハミルトニアンを直接的に得る事は出来ない.しかしながら, 演算子の2乗を定義しそれを書き下すことは可能である:
(Heϕ)2c2=m2c2+(pecA)2

すると H=i/t として,
(9-2)(ictecϕ)2ψ(iecA)2ψ=m2c2ψ

ただし演算子の2乗は, 通常の演算子代数によって求めれる(evaluate) ものとする.相対論的に可能な式として, 最初にこの式を発見したのはシュレディンガーである.通常この式は「クライン-ゴルドン方程式」と言われている.相対論的な表式は,
iDμiμecAμ,iμ=(ict,i),ecAμ=(ecϕ,ecA), iDμ=iμecAμ={(ictecϕ),(iecA)},iμ=(ict,i),ecAμ=(ecϕ,+ecA), iDμ=iμecAμ={(ictecϕ),(i+ecA)}={(ictecϕ),(iecA)},iDμiDμ=(iμecAμ)(iμecAμ)={(ictecϕ),(iecA)}{(ictecϕ),(iecA)}=(ictecϕ)2(iecA)2

従って, 式 (9-2) の相対論的な表式は次となる:
(9-2′)(iμecAμ)(iμecAμ)ψ=m2c2ψ

この方程式は「スピン」を考慮しないため, 水素スペクトルの微細構造を記述できない.そこで今は, スピンを持たない粒子である π 中間子への適用を提案しておく.水素原子への適用を説明ために A=0 かつ ϕ=Ze/r とし, そして ψ=χ(r)exp(iEt/) とする.(また, 電子電荷は負電荷であるから式 (9-2) 中の e には負記号を付ける).すると方程式 (9-2) は,
(ict+ecϕ)2ψ(i+ecA)2ψ={ict+ec(Zer)}2χ(r)eiEt/(i)2χ(r)eiEt/,1c(itZe2r)χ(r)eiEt/=1c{i(iE)Ze2r}χ(r)eiEt/=1c(EZe2r)ψ,(ict+ecϕ)2ψ=1c2(EZe2r)2χ(r)eiEt/,(i+ecA)2ψ=22χ(r)eiEt/,

従って,
1c2(EZe2r)2χ(r)eiEt/+22χ(r)eiEt/=m2c2χ(r)eiEt/,1c2(EZe2r)2χ+22χ=m2c2χ

次に E=mc2+W とおく.ただし Wmc2 である.そして V=Ze2/r を代入すると,

(mc2+WV)2χ+c222χ=m2c4χ,{m2c4+2mc2(WV)+(WV)2}χ+c222χ=m2c4χ,2mc2(WV)χ+c222χ=(WV)2χ,(WV)χ+222mχ=(WV)22mc2χ

右辺の項を左辺の第1項と比較して無視すると, 通常のシュレディンガー方程式となる:
22m2χ+(WV)χ=0,or(22m2+V)χ=Wχ

(WV)2/2mc2 を摂動ポテンシャル ΔV とすることで, 学生諸君は水素原子スペクトルの微細構造を得て, それを正確な数値と比較すべきである.
H=H0+ΔV,H0=22m2+V,ΔV=(WV)22mc2


【 問題 】 Klein-Gordon方程式に対して,

jμ=i2m[ψDμψ(Dμψ)ψ],Dμμ+iecAμ,DμμiecAμ,j0=i2m[ψ(ctψ+iecϕψ)(ctψiecϕψ)ψ]=1ci2m[ψ(tψ+ieϕψ)(tψieϕψ)ψ]=charge densitycj=i2m[ψ(ψiecAψ)(ψ+iecAψ)ψ]=current density

としよう.すると jμ=(j0,j) が4元ベクトルとなり μjμ=0 が成り立つことを示せ.[2][訳註] … Continue reading


〈解答例〉 まず, 式 (9-2′) の左辺を展開して見ると,

iDμiDμψ=(i)2(μ+iecAμ)(μ+iecAμ)ψ=m2c2ψ,(μ+iecAμ)(μ+iecAμ)ψ=μμψ+iec(μAμ)ψ+iecAμ(μψ)+iecAμ(μψ)(ec)2AμAμψ=ψ+iec(μAμ)ψ+2iecAμ(μψ)(ec)2A2ψ=ψ+iB(μAμ)ψ+2iBAμ(μψ)B2A2ψ

ただし B=e/c と置いた.従って, 式 (9-2′) の両辺に ψ を掛け合わせると次となる:
(1)ψψ+iB(μAμ)ψψ+2iBAμψ(μψ)=(B2A2κ2)ψψ,κ=mc

ただし κ=mc/ とした.この式 (1) の複素共役を取ると次となる:
(2)ψψiB(μAμ)ψψ2iBAμψ(μψ)=(B2A2κ2)ψψ

このとき, 式 (1) と式 (2) の右辺は一致するので, 式 (1) の左辺は実の量であることに注意する.

以上を準備として μjμ を具体的に計算して行く.式の煩雑さを減らすために jμ の最初の定数を C=i/2mそしてB=e/c とすると,

1Cμjμ=μ[ψDμψ(Dμψ)ψ]=μ[ψ(μ+iBAμ)ψψ(μiBAμ)ψ]=μ[ψ(μψ+iBAμψ)ψ(μψiBAμψ)]=(μψ)(μψ+iBAμψ)+ψμ(μψ+iBAμψ)(μψ)(μψiBAμψ)ψμ(μψiBAμψ)=(μψ)(μψ)+iBAμ(μψ)ψ+ψμμψ+iBψ(μAμ)ψ+iBAμψμψ(μψ)(μψ)+iBAμ(μψ)ψψμμψ+iBψ(μAμ)ψ+iBAμψμψ

ここで (μψ)(μψ)=(μψ)(μψ) より, 第1項と第6項は打ち消しあう.従って,
1Cμjμ=iBAμ(μψ)ψ+ψψ+iBψ(μAμ)ψ+iBAμψ(μψ)+iBAμ(μψ)ψψψ+iBψ(μAμ)ψ+iBAμψ(μψ)=[ψψ+iBψ(μAμ)ψ+2iBAμψ(μψ)][ψψiBψ(μAμ)ψ2iBAμψ(μψ)]

最初の [ ] 内の量は式 (1) の左辺に一致しており, また 2 番目の [ ] 内は式 (2) の左辺に一致しているので,
1Cμjμ=(B2A2κ2)ψψ(B2A2κ2)ψψ=0

従って, 4元的な連続の方程式が成り立つことが示された:
μjμ=0

前述されているように「2つの4元ベクトルのスカラー積は不変量である」.上式では jμ と4元ベクトル量 μ とのスカラー積がゼロ, 即ちローレンツ不変である.よって, 量 jμ は「ローレンツ共変なベクトル」すなわち「4元ベクトル」であることは明らかである.


クライン-ゴルドン方程式が最初に明るみに出た当時, この方程式を否定する有効な根拠と考えられたほど不合理な結果を導出した.その結果とは, 負のエネルギー状態の可能性である.クライン-ゴルドン方程式が, そのようなエネルギー状態を予言することを理解するために, 自由粒子の方程式を考えて見よう.それは式 (9-2′) に於いて Aμ=Aμ=0 として, 次のように書くことが出来る:

iμiμψ=2ψ=m2c2ψ(+μ2)ψ=0,whereμmc

ただし は「ダランベール演算子」( D’Alembertian operator ) である:
μ=(ct,),μ=(ct,)μμ=(ct,)(ct,)=2c2t22

4元ベクトル表記に於いて, この方程式は次の解を持つ:
ψ=Aexp(ipx)=Aexp[i(Etpx)]wherepx=pμxμ=(Ec,p)(ct,x)=Etpx

ここで,
pμpμ=E2c2p=m2c2

であるから, このときのエネルギー E は次となる:
E=±m2c4+c2p2

E が負の値をとることは明らかに不可能であるため, ディラックは新しい相対論的波動方程式の開発に着手した.ディラック方程式は, 水素原子のエネルギー準位を予測する上で正しいことが証明され, そして電子を記述する式として認められた.しかしながら, ディラックの最初の意図に反して, 彼の方程式もまた負のエネルギーの存在を導いた.しかしそれは今では満足の行く解釈がなされている.クライン-ゴルドン方程式の解もまた, 今では満足の行く解釈が可能である.


【 問題 】 解 ψ=exp(iEt/)χ(x,y,z)Aϕ が定数である場合のクライン-ゴルドン方程式の解であるならば, 解 ψ=exp(+iEt/)χ(x,y,z) はポテンシャルを Aϕ に置き換えたときのものであることを示せ.これは「負」のエネルギー解を解釈する1つのやり方を示している.それは電子と反対の電荷を持つが同じ質量を持った粒子に対する解である.


〈解答例〉 式 (9-2) の両辺に c2 を掛けたものを具体的に展開すると,

(iteϕ)2ψ=(ic2eA)2ψ+m2c4ψ,(1)(22t22ieϕtieϕt+e2ϕ2)ψ=[2c22+2iecA+iec(A)+e2A2+m2c4]ψ

仮定より Aϕ は定数であるから,
(2)ϕt=0,A=0

式 (2) を式 (1) に当てはめると,
(3)22ψt22ieϕψt+e2ϕ2ψ=2c22ψ+2iecAψ+e2A2ψ+m2c4ψ

式 (3) に解 ψ=exp(iEt/)χ(x) を代入する.そのとき,
(4)ψt=iEψ,2ψt2=(iE)2ψ=E22ψ,ψ=exp(iEt/)χ,2ψ=exp(iEt/)2χ

これらを代入すると,
(5)E2ψ2eEψ+e2ϕ2ψ=2c2exp(iEt/)2χ+2iecexp(iEt/)Aχ+e2A2ψ+m2c4ψ

次に解 ψ=exp(+iEt/)χ(x,y,z) を代入した場合には, 同様にして
(6)ψt=iEψ,2ψt2=(iE)2ψ=E22ψ,ψ=exp(iEt/)χ,2ψ=exp(iEt/)2χ

を式 (5) に代入して,
(7)E2ψ+2eEψ+e2ϕ2ψ=2c2exp(iEt/)2χ+2iecexp(iEt/)Aχ+e2A2ψ+m2c4ψ

ここで式 (5) に於いて ϕϕ, AA そして ee としたものを作ってみると,
E2ψ2(e)Eψ+e2ϕ2ψ=2c2exp(iEt/)2χ+2i(e)cexp(iEt/)(A)χ+(e)2A2ψ+m2c4ψ

すなわち,
(8)E2ψ+2eEψ+e2ϕ2ψ=2c2exp(iEt/)2χ+2iecexp(iEt/)Aχ+e2A2ψ+m2c4ψ

この式に於いて ψψ,χχ とすると, ちょうど式 (7) 即ちクライン-ゴルドン方程式 (3) に 解 ψ を代入した場合に一致する.よって, 題意は示された.


ディラック方程式のオリジナルな求め方の代わりに, ここでは別のアプローチでそれを求めてみよう.クライン-ゴルドン方程式は, 実はシュレーディンガー方程式の4元ベクトル形式である.同様の観点から, ディラック方程式はパウリ方程式の4元ベクトル形式として求めることが出来る.そのような手順に従うと, 相対論的方程式には「スピン」に関連する項が含まれることになる.スピンの考え方はパウリによって初めて導入されたが, 電子の磁気モーメントを e/2mc としなければならない理由は当初明確ではなかった.この値はディラック方程式から自然に導かれるように思われた.そのため, ディラック方程式だけが電子磁気モーメントの正しい値を生み出すとよく言われる.しかしそれは真実ではない.なぜならパウリ方程式をさらに研究した結果, 同じ値が自然に, つまり最も単純化できる値として導かれることが分かったからである.スピンはディラック方程式には存在しクライン-ゴルドン方程式には存在しないため, そしてクライン-ゴルドン方程式は正しくないと考えられたため,「スピンは相対論的に要求されるもの」とよく言われる.しかしこれは正しくない.なぜならクライン-ゴルドン方程式は, スピンのない粒子に対して正当な相対論的方程式であるからだ.

従って, シュレディンガー方程式は,

(9-3)Hψ=Eψ,whereH=12m(iecA)2+eϕ

であり, そしてクライン-ゴルドン方程式は式 (9-2) である:
(9-2)(ictecϕ)2ψ(iecA)2ψ=m2c2ψ

さて今度は「パウリ方程式」だが, その場合も Hψ=Eψ ではあるが H は次である:

(9-4)H=12m[σ(iecA)]2+eϕ

従って, シュレディンガー方程式に現れる (iecA)2[σ(iecA)]2 で置き換えられている.それゆえ, クライン-ゴルドン方程式との類推で, パウリ方程式の可能な相対論的改良版は次式のようになるかもしれない:
(9-4′)(Heϕ)2c2ψ[σ(iecA)]2ψ=m2c2ψ

しかしこれは実際は正しくない.しかしこれに非常に似た式, つまり Hi/t で置き換えた形の式は正当である.すなわち,
(9-5)[ictecϕσ(iecA)]×[ictecϕ+σ(iecA)]ψ=m2c2ψ

これはディラック方程式の一形式である.

演算子が作用する波動関数 ψ は, 実際は行列である:

ψ=(ψ+ψ)

ディラックによって最初に提案された形により近いものは以下のようにして得ることが出来る.便宜のために次のように書くことにする:

ictecϕ=π0,iecA=π,πμ=(π0,π)iDμ

そして次は関数 χ を次式によって定義しよう:
(a)(π0+σπ)ψ=mcχ

すると式 (9-5) は, 次式を含意している:
(b)(π0σπ)χ=mcψ

なぜなら, 式 (9-5) は式 (a) と式 (b) によって表せるからである:
(π0σπ)(π0+σπ)ψ=(π0σπ)mcχ=mc(π0σπ)χ=mcmcψ=m2c2ψ

この対式は, 次のように書くことによって書き直すことが出来る (特定の慣用式になるだけだが):
χ+ψ=ψa,χψ=ψb

その次に ψ,χ の対式 (a) と (b) の足算と減算をする.すると次の結果となる:
(9-6){(a)+(b) :π0ψaσπψb=mcψa(a)(b) :π0ψb+σπψa=mcψb

これらの2式は, 特定な慣習を適用することで一つに書くことが出来る.新たな行列の波動関数を次で定義する:
(9-7)ψ=(ψa1ψa2ψb1ψb2)=(ψaψb)

この時 ψaψb の行列文字は明示的に示すことが出来る.すなわち実際は,
ψa=(ψa1ψa2),ψb=(ψb1ψb2)

その次に, 次の捕捉的な定義を行う:
(9-8)γ0=(1000010000100001)=(1001)γ=(0000σσ0000)=(0σσ0)

[註] 後者の定義の例は次となる:
γ1=(0001001001001000)=(0σ1σ10)sinceσx=(0110)

γ2γ3 も同様である).するとψaψbについての2つの方程式
(9-6)は,次の形に書くことが出来る:
γ0π0ψγπψ=mcψ

なぜなら,
γ0π0ψγπψ=(1001)(π0ψaπ0ψb)(0σπσπ0)(ψaψb)=(π0ψaπ0ψb)(σπψbσπψa)=(π0ψaσπψbπ0ψb+σπψa)=(mcψamcψb)=mcψ

これは, 実際は4つの波動関数についての4つの方程式である.すると4元ベクトルを用いることで, ディラック方程式は次となる:
γμ=(γ0,γ),πμ=(π0,π),πμ=(π0,π)=iDμγμπμψ=(γ0,γ)(π0,π)ψ=(γ0π0γπ)ψ=mcψthereforeγμiDμψγμ(iμecAμ)ψ=mcψ,(9-9)or(iγμμecγμAμ)ψ(x)=mcψ(x)


【 問題 】 次が成り立つこと,

γμγν+γνγμ={ 0if μν 2if μ=ν=02if μ=ν=1,2,3

すなわち, 次となることを示せ:
γ0γ0=1,γ1γ1=γ2γ2=γ3γ3=1,γ0γ1=γ1γ0,γ1γ2=γ2γ1,etc.


〈解答例〉 まず γ 行列は, 式(9 -8) のように Pauli行列 σi によって表されることを確認する.

γ0=(1001),γi=(0σiσi0)i=1,2,3

ただし Pauli行列 σi の各々は次である:
σ1=σx=(0110),σ2=σy=(0ii0),σ3=σz=(1001)

この Pauli行列 σi には, 次の性質があることを確かめることは容易である:
[σi,σj]=σiσjσjσi=2iεijkσk,{σi,σj}=σiσj+σjσi=2δijσiσj=δij+iεijkσk

ただし εijkLevi-Civita記号で, 次のように定義される完全反対称テンソルである:
ε123=ε231=ε312=1,ε132=ε213=ε321=1,all other εijk=0

この Pauli行列の性質を用いて γ 行列の性質を求めると以下のようになる:
γ0γk=(1001)(0σkσk0)=(0σkσk0),γkγ0=(0σkσk0)(1001)=(0σkσi0),γ0γk+γkγ0=(0σkσk0)+(0σkσi0)=0,γ0γ0=(1001)(1001)=(1001)=I,γ0γ0+γ0γ0=2,γkγk=(0σkσk0)(0σkσk0)=(σkσk00σkσk)=(1001)=I,γkγk+γkγk=2,wherek=1,2,3γiγj=(0σiσi0)(0σjσj0)=(σiσj00σiσj)=σiσj(1001)=σiσjI,γjγi=σjσiIγiγj+γjγi=(σiσj+σjσi)I=2δijI

ただし I は単位行列である.以上をまとめると次となる:
γ0γ0=I,γkγk=Iwherek=1,2,3,{γμ,γν}=γμγν+γνγμ=2ημνwhereη=(1,1,1,1)


ディラック方程式の同様な形は, クライン-ゴルドン方程式との比較による別の議論からも得ることが出来るであろう.そこで Hc=ict=i0 そして ecϕ=ecA0 とすると, 式 (9-2) は4元ベクトルの表現で次となる:

(9-10)(iμecAμ)2ψ=m2c2ψ

Pauli方程式 (9-4) と似た表記だが σ=γ を用い, そして σ0=γ0 とすると, 式 (9-4′) は式 (9-10) と似た形に書くことが出来る:
(9-11){γμ(iμecAμ)}2ψ=m2c2ψ

この式 (9-11) を, 式 (9-9) と比較すべきである.

さて, 式 (9-4) の Pauli方程式とシュレディンガー方程式との違いは3次元のスカラー積である (pecA)2 が単体の量 σ(pecA) の2乗で置き換わっていることである.類似的な考えで,「式 (9-10) の4元ベクトル積 (pμecAμ)2 は, 単体の量 γμ(iμecAμ) の2乗で置き換えるべきだ」と推測することが出来る.ただし, 三つの3次元行列 σ との類推で, 四つの4次元行列 γμ を創造しなければならない.その結果として得られる方程式

(9-11){γμ(iμecAμ)}2ψ=m2c2ψ

は必然的に式 (9-9) と等価である.なぜなら, 式 (9-9) の両辺に γμ(iμecAμ) を作用させ, 式 (9-9) を再度用いるならば, 右辺は簡単化するからである:
(iγμμecγμAμ)(iγμμecγμAμ)ψ(x)=mc(iγμμecγμAμ)ψ(x)=(mc)2ψ


【 問題 】 式 (9-11) は, 次式と等価であることを示せ:

(iμecAμ)2ψie2cγμγνFμνψ=m2c2ψ


〈 解答例 〉 式 (9-11) はゲージ共変微分 Dμ を用いると

Dμμ+iecAμ,{γμiDμ}2ψ=m2c2ψ

すなわち次式のように表せる:
(1)(γμiDμ)(γνiDνψ)=(i)2γμγνDμDνψ=m2c2ψ

この左辺の量 γμγνDμDν を考える:
γμγνDμDν=12γμγνDμDν+12γμγνDμDν

この第1項のダミー指標の単なる書き換え μν を行なうと,
(2)γμγνDμDν=12γνγμDνDμ+12γμγνDμDν

γ 行列の反交換の関係:{γμ,γν}=2ημν から,
(3)γνγμ=2ημνγμγν

これを式 (2) に利用すると,
γμγνDμDν=12(2ημνγμγν)DνDμ+12γμγνDμDν=ημνDνDμ12γμγνDνDμ+12γμγνDμDν=DμDμ+12γμγν(DμDνDνDμ)(4)=DμDμ+12γμγν[Dμ,Dν]

さらに Dμ の定義から,
[Dμ,Dν]=[μ+iecAμ,ν+iecAν]=(μ+iecAμ)(ν+iecAν)(ν+iecAν)(μ+iecAμ)=μν+iecμAν+iecAμν(ec)2AμAν{νμ+iecνAμ+iecAνμ(ec)2AνAμ}=μν+iec(μAν)+iecAνμ+iecAμν(ec)2AμAν{νμ+iec(νAμ)+iecAνμ+iecAμν(ec)2AνAμ}(5)=iec{μAννAμ}=iecFμν

従って式 (4) は,
(6)γμγνDμDν=DμDμ+12γμγν[Dμ,Dν]=DμDμ+i2ecγμγνFμν

よって式 (9-11) すなわち式 (1) は, この式 (6) を用いることで,
(i)2γμγνDμDνψ=(i)2{DμDμ+i2ecγμγνFμν}ψ=(iDμ)(iDμ)ψie2cγμγνFμνψ=m2c2ψ

すなわち題意の式となる:
(7)(iμecAμ)(iμecAμ)ψie2cγμγνFμνψ=m2c2ψ

ちなみに, この式を通常の単位を用いて書くと,
(iμecAμ)(iμecAμ)=(ictecϕ)2(iecA)2,

また,
γμγνFμν=γ0γjF0j+γiγ0Fi0+γiγjFij=γ0γjF0j+γ0γiF0i+γiγjFij=2γ0γjF0j+γiγjFij=2αiEi+γiγjFij=2αE+γiγjFij,γiγjFij=γ1γ2F12+γ1γ3F13+γ2γ1F21+γ2γ3F23+γ3γ1F31+γ3γ2F32=2γ2γ1F21+2γ1γ3F13+2γ3γ2F32=2iΣ3Hz+2iΣ2Hy+2iΣ1Hx=2iΣH,γμγνFμν=2αE+2iΣH
従って, 次式となる (ランダウ:「相対論的量子力学」の §32 を参照のこと):
(iμecAμ)(iμecAμ)ie2cγμγνFμνm2c2=(ictecϕ)2(iecA)2ie2c(2αE+2iΣH)m2c2,[(ictecϕ)2(iecA)2m2c2+ecΣHiecαE]ψ=0

〈 別解 〉 この問題の解答に該当した内容が, メシア:「量子力学 3」の第 20 章 § 21 にあるので, その説明を問題に合うように修正して記しておく.

式 (9-11) は,「ゲージ共変微分Dμ を用いると次式のように表せる:

(γμiDμ)(γνiDνψ)m2c2ψ=0,γμγνDμDνψ+(mc)2ψ=0,(8)(γμγνDμDν+κ2)ψ=0,κmc

ここで γμ 行列の反交換の関係:{γμ,γν}=2ημν から,
(9)γμγν=12(γμγν+γνγμ)+12(γμγνγνγμ)=ημν+12[γμ,γν]ημν+σμν

また, ダミー指標の単なる書き換えと [γμ,γν]=[γν,γμ] から,
[γμ,γν]DμDν=12[γμ,γν]DμDν+12[γμ,γν]DμDν=12[γμ,γν]DμDν+12[γν,γμ]DνDμ=12[γμ,γν]DμDν12[γμ,γν]DμDν=12[γμ,γν](DμDνDμDν)(10)=12[γμ,γν][Dμ,Dν]

さらに Dμ の定義から,
(11)[Dμ,Dν]=[μ+iecAμ,ν+iecAν]=iec{μAννAμ}=iecFμν

以上の式 (9)(11) より,
γμγνDμDν=(ημν+12[γμ,γν])DμDν=ημνDμDν+12[γμ,γν]DμDν=DμDμ+12×12[γμ,γν][Dμ,Dν]=DμDμ+14[γμ,γν]×iecFμν(12)=DμDμ+ec×i4[γμ,γν]×Fμν

ここで「スピンを表す量Sαβ」を次とする:
(13)Sαβi2σαβ=i4[γα,γβ],whereσαβ12[γα,γβ]=γαγβ( αβ )

すると式 (12) は,
(14)γμγνDμDν=DμDμ+e2cSμνFμν

従って, 式 (9-11) すなわち式 (8) は次のように表すことが出来る:
(15)(γμγνDμDν+κ2)ψ={DμDμ+e2cSμνFμν+(mc)2}ψ=0

この式をクライン-ゴルドン方程式:{DμDμ+(mc/)2}ψ=0 と比べると, 異なるところは
e2cSμνFμν

という項が現れることである.これは粒子のスピンと電磁場との間の相互作用を表す項である.この項は古典的類似物がなく, この項の寄与は古典近似が成り立つ条件の下では無視できる.このときディラック波束の運動はクライン-ゴルドン波束の運動と同じである.

References

References
1 [訳註] ただしこの訳では c, をきちんと表示した式を記述して行く.
2 [訳註] 原書での式は次となっている:
ρ=i(ψψtψψt)eϕψψ,j=i(ψψψψ)eAψψ

しかし, これでは μjμ=0 とはならないようなので修正してある.なお, このときの Dμ は「ゲージ共変微分」( Gauge covariant derivative ) と呼ばれる:
Dμμ+iecAμ,Dμ=μ+iecAμ

ゲージ共変微分」については, 例えば Mark S. Swanson, Path Integrals and Quantum Processes § 7.1 を参照のこと.また, クライン-ゴルドン方程式などについては, 次の文献に詳しい説明があるので参照すべし:
H.Feshbach and F.Villars, Rev. Mod. Phys., 30 (1958), 24