一般的な Lorentz 変換


特殊相対論のローレンツ変換の公式を考える場合, 初等的教科書のほとんどは, 二つの座標系 K 及び K は座標軸が平行で, 例えば K 系が K 系に対して z 軸の正の方向に速度 v で運動している特別な場合が多い.しかし K 系が K 系に対して「任意の速度 v で平行移動している場合」の変換式はどうなるのであろうか? その答えは, 例えば D. Jackson : 「電磁気学」の§ 11.2 や, Misner, Thorne, Wheeler : 「Gravitation」 の § 2. 10 の練習問題に提示されている.それらの記述を示しておこう.

重力理論カバー


次は Misner el al. : Gravitation § 2.10 の練習問題 2.7 の抜粋である:

Exercise 2.7 BOOST IN AN ARBITRARY DIRECTION
An especially useful Lorentz transformation xμ=Λ νμxν has the matrix components

Λ 00=γ11β2,Λ j0=Λ 0j=βγnj,(2.44)Λ kj=Λ jk=(γ1)njnk+δjk,Λ νμ=(same as Λ μν but with β replaced by β),

where β,n1,n2 and n3 are parameters, and n2(n1)2+(n2)2+(n3)2=1.
Λ νμ=(γβγn1βγn2βγn3βγn1(γ1)n1n1+1(γ1)n1n2(γ1)n1n3βγn2(γ1)n2n1(γ1)n2n2+1(γ1)n2n3βγn3(γ1)n3n1(γ1)n3n2+1(γ1)n3n3+1)

そして, 以下は D. Jackson : 「電磁気学」の§ 11.2 の記述を補足したものである:
2つの座標系 K 及び K を考える.K 系の座標軸は K 系の座標軸に平行であるとする. 先ずは, K 系が K 系に対して z 軸の正の方向に速度 v で運動しているとする.(図1の左図を参照).

標準座標

図 1.

このときのK 系の座標と K 系の座標とを結び付ける Lorentz 変換は, 初等的な教科書で次のように記されているであろう:

z=γ(zvt),whereγ=11β2, β=vc,x=x,y=y(1)t=γ(tvc2z)

この式 (1) の変換は, K 系と K 系の相対運動が z 軸に平行である特別な場合を表わしている.
それに対して図1の右図のように, K 系が K 系に対して任意の速度 v で平行移動している場合の変換式を考えてみる.式 (1) は明らかに座標ベクトルの v に平行な成分 x=z と垂直な成分 x=x,y に対して適用できることに注意する.従って, 式 (1) に於いて zx そして, x,yx とすれば次が得られる:
x=γ(xvt),x=x,(2)t=γ(tvxc2)=γ(tvxc2),γ=11β2

ただし, n を ベクトル v 方向の単位ベクトル即ち v=vn とし, また明らかに x=x+x なので, 次式が言えることに注意する:
vzvx=v(x+x)=vx,becausex=x+x,vx=0(3)vv2(vx)=vv2(vx)=n(nx)=n|x|=x,therforex=(vx)vv2

よって, 上式 (2) から次のような「同次の一般的な Lorentz 変換式」が得られる:
x=x+(γ1)vxv2vγvt,(4)t=γ(tvxc2)or,ct=γ(ctvxc)

ni=viv として, これを座標成分で表現し直すと,
xj=xj+(γ1)(x1v1v+x2v2v+x3v3v)vjvγvjvvcct=δ kjxk+(γ1)xknknjβγnjct=βγnjct+{δ kj+(γ1)nknj}xkct=γctγxvc=γctγvc(vxvx+vyvy+vzvz)=γctγβn1x1γβn2x2γβn3x3(5)=γctβγnkxk

更に, 4次元座標 xμ で表現した「同次の一般的な Lorentz 変換式」 (非同次なローレンツ変換 xμ=Λ νμxν+aμ は「ポアンカレ変換」と呼ばれる) に書くならば,
xμ=Λ νμxν,xj=Λ νjxν=Λ 0jct+Λ kjxk(6)x0=ct=Λ ν0xν=Λ 00ct+Λ k0xk

式 (5) と式 (6) とを比較するならば, 式 (5) の結果は, 前述の Misner の式 (2.44) に一致することが分かる:
(7)Λ 0j=βγnj,Λ kj=δ kj+(γ1)njnk,Λ 00=γ,Λ k0=βγnk


( 参考 ) 内山:「相対性理論」によれば, 「一般の Lorentz 変換」は次のように定義される:

任意の世界点 PS, S から見た座標をそれぞれ xμ, xμ とする.いま xμxμ の間に

(8)xμ=Λ νμxν+bμ

の関係があるとする. 更に, 光速度不変の原理に基づく次の条件を満たすとする:
(9)s2ημνxμxν=ημνxμxν

ただし, ημν は「平坦時空の計量テンソル」で, その符号系は Misner 本と同じ (+++)とする.
このとき, 変換 xμxμ は「Lorentz 変換」である.式 (9) を式 (8) に代入して x の係数を比較すると次式が成り立つ:
(10)ημν=ηρσΛ μρΛ νσ=Λ μρηρσΛ νσ

従って, 「式 (8) で定義された座標変換 xμxμ に於いて,その係数 Λ νμ が式 (10) を満たすとき, それは Lorentz 変換である」.

この式 (10) を, 「Λ νμ を行列要素とする 4×4行列 Λ」と 「ημν を行列要素とする 4×4行列 η」 とで表現してみる.「Λ の転置行列を ΛT」 と記すならば,

(11)(Λ)μνΛ νμ,(ΛT)μν(Λ)νμ=Λ μν,and(η)μνημν

となるから, 式 (10) の行列表現は次となる:
(12)ημν=Λ μρηρσΛ νσ=(ΛT)μρ(η)ρσ(Λ)σν(η)μν=(ΛTηΛ)μν

式 (7) すなわち式 (2.44) の Λ νμ が, 上式 (12) を満足することは実際に行列計算をして確かめることが出来る.例えば, Maxima を用いた結果は次となった:
maximaの出力結果

図 2.最後の結果は, 条件式 n2=(n1)2+(n1)2+(n1)2=1 を用いることで L=ημν に一致することが分かる.


また, 式 (2.44) を回転行列を用いて求める方法もあるらしい.例えば, 次のサイトの文章に分かり易い導出の説明が示されていた:

https://www.phyas.aichi-edu.ac.jp/~takahasi/Project_H_pdf/Rel.SgrA.2.pdf

その文中の 5.6 ローレンツ変換の一般的表現(任意の向きの相対速度) に於ける 次の式

(5.10)Lgen(v)=R1(θ,ϕ)Lx(v)R(θ,ϕ)

の具体的な計算を, やはり Maxima で実行して見たので, その結果を示しておこう:

Maximaの計算結果

図 3.

ここでは, 前述のni は「方向余弦である」と考えて, それを図 1. のような3次元極座標の角度で表した次の関係式

n1=vxv=cosα=sinθcosϕ,n2=vyv=cosβ=sinθsinϕ,(13)n3=vzv=cosγ=cosθ

を用いて表している. この関係式 (13) および三角関数の公式を図 3. 中の最後の結果式に当てはめるならば, ちょうど式 (2.44) に一致する結果になっていることが確かめられると思う.