Boson系波動関数の規格化が違っている?

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\(N\) 個の同じBose粒子からなる系について, その波動関数の表し方が教科書によって異なっていて紛らわしく感じたので報告しておく.

砂川表紙1

まず, 砂川重信 :「量子力学」第 6 章 § 1 の記述から紹介する.

量子力学的体系が, 例えば電子のような同種粒子から構成されているとき, それらの粒子を互いに識別することは不可能である.すなわち, それらの粒子の内の2個を入れ替えても, 観測できるような変化は生じない.
量子力学的粒子の入れ替えをしたとき, その前後の2つの状態が区別できず, それらを同一の状態と見るべきであるとの要請を満たすためには, 状態関数 \(\psi(q_1,q_2,\dotsb, q_N; t)\) にどのような条件が課せられるかを調べよう.
今, 粒子を指定する変数 \(q_1,q_2,\dotsb,q_N\) の内の任意の2個, 例えば \(q_2\) と \(q_3\) を入れ替えて,

\begin{equation}
(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N)\quad \rightarrow\quad (q_1,q_3,q_2,\dotsb,q_N)\equiv p_{23}(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N)
\tag{1.3}
\end{equation}

としたとする.ここで \(p_{23}\) はこの「置換」を表す演算を示すものとする.このような置換をしたときの状態関数
\begin{equation}
\psi(q_1,q_3,q_2,\dotsb,q_N;t) \equiv \psi(p_{23}(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N);t)
\tag{1.4}
\end{equation}

は, 元の状態関数 \(\psi(q_1,q_2,\dotsb, q_N; t)\) とは一般に別の違う関数である.そこで, 元の状態関数から新しい状態関数を作り出す演算子を \(\mathbf{P}_{23}\) と書いて,
\begin{equation}
\def\ppdiff#1#2{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\def\pdiff#1{\frac{\partial}{\partial #1}}
\def\mb#1{\mathbf{#1}}
\def\reverse#1{\frac{1}{#1}}
\def\ket#1{| #1 \rangle}
\def\bra#1{\langle #1 |}
\mb{P}_{23}\psi(q_1,q_2,\dotsb,q_N;t)=\psi(q_1,q_3,q_2,\dotsb,q_N;t)
\tag{1.5}
\end{equation}

と表すことにしよう.粒子の入れ替えは上の変数の置換により表されるから, 粒子を入れ替えた2つの状態が区別できないということは, 上の2つの状態関数が同一の状態でなければならないことである.2個の粒子について2度入れ替えたらそれは何もしなかったことと同じになることから, 系の状態関数は次の「対称関数」か「反対称関数」かのいずれかになる:
\begin{align}
\text{対称関数:}\quad \psi(q_1,q_3,q_2,\dotsb,q_N;t) &= +\psi(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N;t),\notag\\
\text{反対称関数:}\quad \psi(q_1,q_3,q_2,\dotsb,q_N;t) &= -\psi(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N;t),
\end{align}

\(N\) 個の粒子から成る系の状態関数 \(\psi(q_1,q_2,q_3,\dotsb,q_N;t)\) は, 一般に対称関数でも反対称関数のどちらでもない.その状態関数から, 対称関数や反対称関数を作るにはどうしたら良いだろうか?.\(N\) 個の粒子の任意の入れ替えは, \(N\) 個の内の2個の粒子の入れ替えを繰り返すことによって得られる.そのような入れ替えの操作によって得られた新しい状態関数を一般に \(\mb{P}\psi(q_1,q_2,\dotsb,q_N;t)\) と書くと, 対称関数 \(\psi^{(S)}(q_1,q_2,\dotsb,q_N;t)\) によって表される状態は, 元の状態関数から次のようにして作ることが出来る:
\begin{equation}
\psi^{(S)}(q_1,q_2,\dotsb,q_N;t) = \frac{C}{N!} \sum_{p} \mb{P}\psi(q_1,q_2,\dotsb,q_N;t)
\tag{1.12}
\end{equation}

ただし, \(p\) に関する和は \(N\) 個の変数の \(N!\) 個の可能なすべての置換についての和を意味する.また \(C\) は規格化定数である.

今 \(N\)個の同種粒子が, ある共通の外的ポテンシャル \(V\) の作用の下でそれぞれ独立に運動しているものとする.粒子間の相互作用を無視するこのような近似を「独立粒子近似」という.このとき, 体系を記述するハミルトニアンは

\begin{equation}
H=\sum_{i=1}^{N} H_i,\quad H_i=-\frac{\hbar^{2}}{2m}\nabla^{2}_i +V(q_i),\quad H_i\phi_n(q_i)=E_n\phi_n(q_i)
\tag{1.16}
\end{equation}

で与えられる.系を構成する粒子が同種粒子であることは, このハミルトニアン中の質量 \(m\) とポテンシャル \(V(q_i)\) の関数形が全ての粒子で同一であることに反映されている.このハミルトニアンで記述される系の定常状態は, \(H_i\) の固有関数である \(\phi_n(q_i)\) の積
\begin{equation}
\phi_{m,n,\dotsb,r}(q_1,q_2,\dotsb,q_N) = \phi_m(q_1)\phi_n(q_2)\dotsb\phi_r(q_N)
\tag{1.18}
\end{equation}

で表され, また全系のエネルギー固有値 \(E\) は, 各々の固有値の和で表される:
\begin{equation}
E=E_m+E_n+\dotsb+E_r
\tag{1.19}
\end{equation}

Bose粒子の場合を考えよう.式 (1.18) の固有関数を式 (1.12) の手続きに従って対称化する.それには, 式 (1.18) の量子数の組 \((m,n,\dotsb,r)\) を固定しておいて, 粒子を指定する変数 \(q_1,q_2,\dotsb,q_N\) に対して可能な全ての置換を施して, 得られた \(N!\) 個の関数の和を取ればよい.即ち,
\begin{equation}
\phi_{m,n,\dotsb,r}^{(S)}(q_1,q_2,\dotsb,q_N) = \frac{C}{N!}\sum_p \mb{P}[\phi_m(q_1)\phi_n(q_2)\dotsb\phi_r(q_N)]
\tag{1.20}
\end{equation}

これがBose粒子系を記述する対称化された固有関数である.
規格化の手続きにより定数 \(C\) を決定した結果は次となる:
\begin{align}
\phi_{m,n,\dotsb,r}^{(S)}(q_1,q_2,\dotsb,q_N)
&= \sqrt{\frac{N!}{n_1!\,n_2!\,\dotsb}}\,\frac{1}{N!}\,\sum_p \mb{P}[\phi_m(q_1)\phi_n(q_2)\dotsb\phi_r(q_N)]\notag\\
&= \frac{1}{\sqrt{N!\,n_1!\,n_2!\,\dotsb}}\,\sum_p \mb{P}[\phi_m(q_1)\phi_n(q_2)\dotsb\phi_r(q_N)]
\tag{1.22}
\end{align}

具体的に3粒子系を考え, 1番目粒子の量子数が \(m=k_2\), 2番目粒子量子数が \(n=k_2\), 3番目粒子量子数が \(r=k_4\) の値を取るときは次となる:
\begin{align}
\phi_{k_2,k_2,k_4}^{(S)}(q_1,q_2,q_3)
&=\sqrt{\frac{3!}{0!2!0!1!0!\dotsb}}\frac{1}{3!}\big[ \phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_3)\notag\\
&\quad +\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_1)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_1)\big]\notag\\
&=\frac{1}{\sqrt{12}}\big[ \phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_3)\notag\\
&\quad +\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_1)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_1)\big]
\tag{1.25}
\end{align}

この例から分かるように, Bose粒子は同一の状態に何個でも入ることが出来る.これがBose粒子の特徴である.

これに対して, ランダウやJ.J.Sakuraiでは同じ場合について次のような表記になっている:
まずランダウでは,

任意の数である \(N\) 個の粒子という一般的な場合に規格化された波動関数は,

\begin{equation}
\psi=\sqrt{\frac{N_1!N_2!\dotsb}{N!}}\sum \psi_{p_1}(\chi_1)\psi_{p_2}(\chi_2)\dotsb\psi_{p_N}(\chi_N)
\tag{45.3}
\end{equation}

となる.ただし和は異なる添字 \(p_1,p_2,\dotsb,p_N\) のあらゆる置換についてとり, 数 \(N_i\) は全ての添字のうち同じ値 \(i\) を持つ添字の数を表している.この場合 \(\sum_i N_i =N\) となる.また和の項の数は明らかに \(\displaystyle \frac{N!}{N_1!N_2!\dotsb}\) である.

次に J.J.Sakurai では,

具体的に同種の三粒子系を調べる.\(\ket{k_1}\ket{k_2}\ket{k_3}\) の形をした可能なケットで, もし3個の指標のうち2個が一致していたら, 完全対称状態は例えば次で与えられる:

\begin{equation}
\ket{k_1 k_1 k_2}=\frac{1}{\sqrt{3}}\big(\ket{k_1}\ket{k_1}\ket{k_2}+\ket{k_1}\ket{k_2}\ket{k_1}+\ket{k_2}\ket{k_1}\ket{k_1}\big)
\tag{6.1.21}
\end{equation}

以上の各表現式を比較すると, 一見すると砂川の式 (1.22) とランダウの式 (45.3) または Sakurai の式とでは「規格化係数が異なるように見える?」.しかし砂川の式 (1.25) を, 次のように書き直すと Sakurai の式 (45.3) と同様であることが分かった:

\begin{align}
\phi_{k_2,k_2,k_4}^{(S)}(q_1,q_2,q_3)
&=\frac{1}{\sqrt{12}}\big[ \phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_3)\notag\\
&\quad +\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_4}(q_1)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)+\phi_{k_2}(q_3)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_1)\big]\notag\\
&=\frac{1}{\sqrt{12}}\big[ \phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)\notag\\
&\quad +\phi_{k_4}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)+\phi_{k_4}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\big]\notag\\
&=\frac{1}{\sqrt{12}}\big[ 2\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+2\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)
+2\phi_{k_4}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\big]\notag\\
&=\frac{2}{\sqrt{12}}\big[ \phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_4}(q_3)+\phi_{k_2}(q_1)\phi_{k_4}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)
+\phi_{k_4}(q_1)\phi_{k_2}(q_2)\phi_{k_2}(q_3)\big]\notag\\
&=\frac{1}{\sqrt{3}}\big[ \ket{k_2}\ket{k_2}\ket{k_4}+\ket{k_2}\ket{k_4}\ket{k_2}+\ket{k_4}\ket{k_2}\ket{k_2}\big]
\end{align}