Planckの輻射則


ファインマンの第6講では, プランクの黒体放射分布則の導出が述べられている.これを理解するために, J.J.Sakurai;「Advanced Quantum Mechanics」 §2.4 の「Planckの輻射則」の記述を抜粋しておく.
Sakurai book cover

Planckの輻射則

この節の最後に, 場の量子論の観点からプランクの輻射則を導出したい.熱平衡が成立するような可逆過程
Aγ+B
によって自由にエネルギーを交換できる原子(状態A,B)と輻射場(γ)があるとする.高い方の原子準位 A と低い方の原子準位 B の個体数を各々 N(A) 及び N(B) とすると,

(2.150)N(B)wabs=N(A)wemis,(2.151)N(B)N(A)=eEB/kTeEA/kT=eω/kT

という平衡条件が成り立つ.ただし wabswemis はそれぞれ B+γAAB+γ に対する「遷移確率」である.光子の吸収を表す行列要素の式 (2.96) と放射を表す行列要素の式 (2.99), そして式 (2.114) からの遷移確率(遷移頻度)の式は次である:
(2.96)A;nk,α1|Hint|B;nk,αabs=emnk,α2ωViA|eikxipiϵ(α)|Beiωt(2.99)B;nk,α+1|Hint|A;nk,αemis=em(nk,α+1)2ωViB|eikxipiϵ(α)|Aeiωtwemis=2π|B;nk,α+1|Hint|A;nk,α|2δ(EBEA+ω),(2.114) wabs=2π|B;nk,α1|Hint|A;nk,α|2δ(EAEBω)

ただし ϵ(α) は「偏極ベクトル」である.以上の式から, 次が言える:
(2.152)wemiswabs=|B;nk,α+1|Hint|A;nk,α|2|B;nk,α1|Hint|A;nk,α|2=(nk,α+1)nk,α|iB|eikxiϵ(α)pi|A|2|iA|eikxiϵ(α)pi|B|2

しかし,
(2.153)B|eikxiϵ(α)pi|A=A|piϵ(α)eikxi|B=A|eikxiϵ(α)pi|B

従って,
(2.154)N(B)N(A)=wemiswabs=nk,α+1nk,α

これらの結果式 (2.151) と式 (2.154) を用いると, 次式が得られる:
(2.155)N(B)N(A)=nk,α+1nk,α=eω/kTnk,α=1eω/kT1=nk,α

δ(EAEBω) から, これはすべて光子状態が ω=EAEB を満たす場合である.輻射場が様々な種類の原子で構成され, あらゆるエネルギーの光子を吸収・再放出できる「黒い」壁で囲まれているとする.放射エネルギー E と単位体積当りの平均放射エネルギー E/V は次式で与えられる:
E=kα(12+nk,α)ω,EV=1Vkα(12+nk,α)ω=u0+2Vknk,αω
ただし u0=kω/V は単位体積当りのゼロ点エネルギーなので無視する.また 2 は偏極数すなわち α の和の結果である. 和 kk 空間での積分に変えることが出来る:
2Vk2Vd3k(2π/L)3=2L3(L2π)34πk2dk

ただし k=|k|=ω/c である.すると, 角振動数区間 (ω,ω+dω) に於ける輻射場の単位体積あたりのエネルギーは次式で与えられることになる:
U(ω)dω=2L3(L2π)34πk2dknk,αω=2(2π)34π(ωc)2d(ωc)1eω/kT1ω(2.156)=8πc3(ω2π)3(1eω/kT1)dω

単位体積当りの振動数ごとのエネルギー分布は,
(2.157)U(ν)=U(ω)dωdν=8πc3ν3(1ehν/kT1)d(hν)dν=8πhν3c31ehν/kT1

これは20世紀の量子領域の物理学を切り開いたプランクの有名な法則である.
我々のプランク法則の導出と1917年のアインシュタインの導出を比較することは有益である.どちらも原子と放射場の熱平衡に基づいている.アインシュタインの導出では,「詳細つりあいの原理(principle of detailed balance)」を明示的に行使している.対照的に, 我々の導出では詳細つりあいの物理学は式 (2.153) に含まれており, これは輻射の量子論で使われるハミルトニアンのエルミート性の自動的な結果である.また, 我々の導出では「自発放射」と「誘導放射」からの寄与を区別していないことにも注意してほしい.
この節では2つの原子状態間の輻射遷移に焦点を当てて来たが, 私たちが習得したテクニックは他の多くの現象にも容易に適用することが出来る.例えば, 光電効果の断面積を計算したり(問題2-4), Σ0 ハイペロンの寿命を計算したり(問題2-5)することが出来る:
Σ0 M1 Λ+γ